鈴村君の裏の顔

由佳
「……ちょ、望愛……!?」


私の耳元で由佳が、小声で囁く。

由佳
「あれって……優希君じゃない!?」


望愛
「えっ!?ちが……」

否定しかけた私の声は、
周囲のざわめきに掻き消される。


周りの人達A
「今の声……MOONの優希?」

周りの人達B
「え、まさか……こんなところに?」


周りの人達C
「でも、背丈とか似てない?」

ざわ、ざわ。

空気が、一気にざらつく。

優希君!?なんでここにいるの!?
あっ……朝のLINE……あれって
ここに来る為のLINEだったって事!?


とにかく……やばい……
この状況は非常にマズすぎる……。
MOONの優希だってバレたら、
大混乱を免れない。

それに、私の名前呼んじゃってる
せいか、私の方にも注目が集まる。

これは……何とかしなきゃ。

私は瞬時に判断した。

私は優希君の傍まで駆け寄り
そして次の瞬間……
私は、咄嗟にぎゅっと優希君の手首を掴んだ。


望愛の手が、俺の手首を掴んだ。

優希
「……っ!!」

心臓が、
跳ねるどころじゃない。

掴まれた瞬間、
血流が一気に身体中に上昇する。

……やば……

そんな中同時に、もう一つの手で、
隣の女の子の手首も掴んでいた。

望愛
「走るよ!」

そう言って、望愛は走り出した。

突然の猛ダッシュ。

由佳
「ちょっ……!?」



俺は一瞬遅れて、状況を理解する。

――逃げてる。

きっと、状況判断をいち早く察知して
くれたんだ。

俺、望愛に引っ張られてる……

それだけで、頭が真っ白になる。

……待って、このシュチエーション
は心臓に悪いんだけど。

……手、近い。
望愛の指が、
しっかりと自分の手首を掴んでいる。
指からじんわりと伝わる優しい体温が
余計、俺の心を麻痺させる。


望愛に触れられている……。

それが――
嬉しくて、怖くて。

心臓……破裂する。
こんなに胸が高鳴ったのは初めて
かも知れない。

こんなに……
想い人に触れられただけで
胸が熱くなるんだな。

人気モデルや、
人気女優とかに言い寄られて
も何も感じないのに、
望愛とこうして一緒に走ってる
だけですぐに舞い上がってしまう。


走りながら、俺は思う。

これ……夢じゃないんだ。

今、望愛は俺の手を掴んでる。
そう、意識をするだけで
現実なんだと認識する。

三人はそのまま、
大学の正門を抜けて、
人通りの少ない道へ飛び出した。

息が、上がる。

でも、
俺の胸の高鳴りは、治まらない。
息が上がるのも、
運動のせいだけじゃなかった。

この一瞬、一瞬を逃したくない。

そんな予感だけが、
強く胸に残っていた。


しばらく三人は無我夢中で
走り続け公園の入り口を抜けた瞬間、
私はようやく足を止めた。

望愛
「……っ、はぁ……はぁ……」

肩で息をしながら、
手を膝につく。

ひっ……久しぶりに……こんなに走った。
疲れ……た。



少し遅れて、優希君と由佳も止まる。

由佳
「……っ、はぁ……はぁ」
「ちょっ……望愛…き……」
「急に走り出さないでよ。」


望愛
「ごっ……ごめん。」
「でも、あの場に……居たら優希君が」
「大変な事になるから。」


由佳
「それは、そう……ん?」
「ちょっと……望愛それって……」


優希
「……っ、は……っ……」

俺は思わず胸元を押さえた。

優希
「ちょ……ごめん……息、苦し……」
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