鈴村君の裏の顔
優希は一瞬だけ間を置いてから、
肩をすくめた。
「望愛へのクリスマスプレゼント。」
その言い方は軽いのに、
どこか挑発的で。
俺は眉をわずかに寄せたまま、
望愛に視線を戻す。
隼人
「……似合ってる。」
低く、感情を抑えた声で言った。
優希からのクリスマスプレゼントってのが
めちゃくちゃ悔しい……けど……
悔しいくらい望愛にはピッタリな
ネックレスだった。
望愛
「……ありがとう」
私が素直に答えると、
隼人君はそれ以上何も言わず、視線を逸らした。
その沈黙を破ったのは森下君だった。
翔太
「なあ、そうだ!」
思い出したように手を叩く。
翔太
「明日、25日。俺たち全員オフだよな?」
隆二
「だな!久しぶりにみんなオフで」
「新鮮な感じだよな。」
宮部君が嬉しそうに言う。
翔太
「せっかくだしさ、」
森下君は何故か私の方を見て、
明るく言った。
翔太
「ここでみんなで」
「クリスマスパーティしない?」
望愛
「え……?」
翔太
「俺、親友呼ぼうと思っててさ。」
「みんなでやったら楽しいだろ?」
宮部君は大きく首を上下に動かして
言う。
隆二
「それ、良い考えじゃん!」
「俺は賛成。」
「せっかくのオフだし!」
隼人君も意外と乗り気で静かに
言葉を滑らせた。
隼人
「……いいんじゃないか。」
どうしよう……楽しそうだけれど……
明日は由佳と一緒に過ごしたいなぁ。
私は迷いながら答える。
望愛
「実は……明日、」
「親友の由佳とスイーツ」
「バイキングの予定で……」
翔太
「じゃあ、その由佳ちゃって子も呼びなよ!」
えっ!?
でも……それはぁ……色んな意味で
大変だと……
望愛
「でも、由佳はMOONの大ファンで」
「……優希推しで……迷惑かけちゃうかも」
「ガチのMOONオタなんで騒いで」
「うるさくしてしまう可能性が……」
「それに皆さんのオフの、時間が……」
すると優希君が、柔らかく笑った。
優希
「俺、望愛の大学行った時、」
「佐々木由佳さんに会ったことあるよ。」
翔太・隆二
「えっ?」
優希
「前、俺言ったじゃん。」
「望愛とお試しで付き合う事に」
「なった話しの流れで。」
翔太・隆二
「あーその子ね。」
優希
「いい子だったし、」
「望愛の親友なら信用できるし、」
そう言って、軽く笑う。
優希
「俺は全然歓迎。」
森下君は大きく頷く。
翔太
「俺もそう思う。それにさ、」
少し照れたように続ける。
翔太
「最初に話したと思うけど」
「俺も親友呼と思ってるし。」
みんなでやった方が楽しいだろ?」
隆二
「賑やかな方がいいな。」
「あっ、どうせならプレゼント交換しようぜ!」
そして……隼人君も……
隼人
「それ……俺も、いいと思う。」
隼人君が、静かに言った。
視線は私じゃなく、
テーブルの方に向けたまま。
隼人
「望愛が楽しめるなら。」
その一言が、胸に深く刺さる。
望愛
「……じゃあお言葉に甘えて」
私はスマホを取り出した。
望愛
「由佳に、LINEしてみます。」
みんなが「決まりだな」と笑う中、
私はネックレスの感触を確かめるように、
そっと喉元に触れた。
優希の気持ち。
隼人の視線。
このクリスマスは、きっと穏やかじゃない。
そう確信しながら、
画面に由佳の名前を表示した。
*隼人side*
楽屋のドアが閉まる音と同時に、
翔太がいつもの軽い調子で声をかけてきた。
翔太
「隼人、リハお疲れ。」
「さっきの最後の立ち位置、」
「ちょいズレてたけど大丈夫?」
隼人
「あ、……ああ。」
「次は気をつける。」
返事はしたけど、
自分の声が少し遅れて聞こえた気がした。
隆二がペットボトルを投げて寄越す。
隆二
「はい水……ってか隼人……」
「顔、固いぞ。緊張してんの?」
隼人
「……別に。」
優希が鏡の前で髪を整えながら、
ちらっとこちらを見る。
優希
「珍しいね。」
「いつも一番余裕あるのに。」
隼人
「そうか?」
優希
「そうだよ、今日ずっと上の空。」
つっ……誰のせいだと思ってんだよ。
楽屋のソファに腰を下ろしても、
頭の中はさっきから、全然静かにならない。
リハは問題なかった。
立ち位置は少しズレたけど、
歌も、カメラ割りも。
身体はちゃんと覚えてて完璧だった。
……なのに。
思い出すのは、
寮のリビングで見た、あの光景だった。
望愛の首元で、小さく揺れていたネックレス。
翔太がスマホを確認しながら言う。
翔太
「そういえばさ、今日イブだけど」
「仕事終わったら直帰?」
隼人
「……ああ、多分。」
答えながらも、
自分が何を言ったのか、少し遅れて理解する。
あっ……翔太は望愛と俺の事気にして
くれてんだ……。
隆二
「“多分”ってなんだよ。」
翔太の横で座っていた隆二が笑って言った。
隆二
「望愛ちゃんでも誘えば?」
隼人
「いや……いい。」
即答だった。
それが逆に、
自分でも不自然に感じてしまうくらい。
トップスの隙間から、
ほんの少しだけ覗いたそれを、
俺は見逃さなかった。
”クリスマスプレゼント”
優希がそう言った時の、
あの一瞬の空気がいやでも目に焼き付いている。
優希が少し視線を逸らして、
低く言う。
優希
「……隼人?」
隼人
「ん?」
呼ばれて、ようやく現実に戻る。
優希
「さっきから名前呼んでるんだけど。」
隼人
「あ……悪い。」
似合ってる、って言ったのは本音だった。
本当はそれ以上、何も言えなかっただけだ。
俺は……分かってしまった……。
……そういうことか。
楽屋の天井を見上げて、
ゆっくり息を吐く。
望愛は……
優希が好きなんだ。
だから“お試し”でも付き合うことを、
OKしたんだ。
そんな事が頭から離れなくなっていると
翔太が隣に腰を下ろして、
小さく声を落とす。
翔太
「無理すんなよ。」
「今日、生放送だぞ。」
隼人
「してない。」
翔太
「いや、あきらかにしてる顔だぞ。」
……やっぱり、分かるか。
胸の奥が、じわっと痛む。
今まで、俺に向けられてた視線。
名前を呼ぶ声。
距離の近さ。
何気なく触れてきた指先。
笑いかける時の、少し照れた顔。
……全部、俺の勘違いだったのか?
そう思った瞬間、
胸のどこかで、何かが静かに崩れた。
優希と話してる時の望愛を思い出す。
あいつに向ける笑顔は、
俺に向けるものより、少し柔らかかった気がする。