鈴村君の裏の顔
「ありがとうございます。」
私はお礼を言って
大和君の隣を、少し距離を保って歩き出す。
目的のパフェ屋は、5階。
その後エスカレーターで移動し、
5階パフェ屋に到着すると、
思った以上に列ができていた。
「……結構、並んでますね。」
「人気店みたいだね。」
私達も列の最後尾につく。
すると——
前に並んでいた女子二人組が、
小声で話し始めた。
女子1
「ねぇ、あの人……」
「YAMATOに、似てない?」
「帽子とメガネしてるから、」
「顔、あんまり見えないけど……」
女子2
「確かに……背丈とか、輪郭……」
「そっくりじゃない?」
女子1
「話しかける?」
女子2
「話しかけたいよね。」
「YAMATO、かっこいいし」
「握手とか……してくれないかな?」
女子1
「でも、隣りの女の子……」
「まさか、YAMATOのか……彼女?」
女子2
「え、そうだったらヤバくない!?」
「YAMATOに彼女とかヤダー。」
勿論、私と大和君に全部、
聞こえていた。
私は思わず、大和の方を見る。
すると……
大和君は、
これ以上ないくらい困った顔で、
俯いていた。
……あ、これはだいぶん困ってる。
何とかしないと。
瞬時に状況を理解して、
私は一歩前に出る。
「ねぇ、直樹!」
わざと、少し明るめの声。
「ここのパフェ、何食べるかもう決めた?」
完全に、
“友達同士”の距離感で演じた。
大和君は一瞬、きょとんとしたあと、
すぐに察したように口角を上げる。
そして、私の耳元に顔を寄せて、
小さく囁いた。
「……望愛、」
「今からはしゃいでどうすんだよ。」
ドキッ、とする距離。
俳優のYAMATOが降臨する。
「ちょっと彼女役、やって」
低い声で続ける。
「これで、あの子たち撒けるから。」
——え?
そう思った瞬間。
大和君が、私の頬に顔を近付けてきた。
キスされた……!?
いや、キスするフリをされた。
触れていないのに、
近すぎて、頭が真っ白になる。
「……っ!!」
私は完全に固まって、瞬きすらできなかった。
フリとは言え……こんなのやりすぎだよ!
だけど、こんな時でも私は……
この前の隼人君の事を思い出してしまった。
同じようなシュチュで重なってしまって、
また胸が、きゅっーとする。
私達の様子を見た、前の女子たちの声。
少女1
「……え」
「名前違う……。」
女子2
「普通のカップルっぽくない?」
少女1
「……じゃあ、違うか。」
少し残念そうな空気。
やがて、
私たちの番が呼ばれ、
店内へ案内される。
席につき、メニューを開く。
「僕、マンゴーパフェにしよかな。」
「じゃ、私は……いちごパフェで。」
注文を終え、改めて店内を見渡すと
少し落ち着いた空気がBGMと共に
流れていた。
そして店内でも、
私は無意識に機転を利かせてしまう。
「ね、直樹。」
そう呼ぶと、
大和君はくすっと笑った。
「もう、偽らなくて大丈夫だよ。」
「本当に大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だよ。」
「望愛ちゃんありがとう。」
「……わかった。」
一拍置いて、私はぽつりと言った。
「あっ……あの。」
「芸能人って……大変だね。」
私が素朴に感じた事を口に出すと
大和君は、少し遠くを見るような目をしてから、
穏やかに答えた。
「慣れれば、そうでもないよ。」
でも、その声には、
ほんの少しだけ、寂しさが混じっていた。
「そうなんだ。」
その後はパフェが来るまでの時間、
大和君は色んな話をしてくれていた。
そして店内は、甘い香りで満たされていた。
カチャカチャと食器の触れ合う音、
小さな笑い声。
向かいに座る大和君は、
何もなかったように私に話ししてるけれど、
さっきの“慣れればね”の余韻をまだ引きずっているようにも見えた。
私は、少しだけ勇気を出して口を開く。
「あの……大和君。」
「ん?」
「さっきの……」
「“慣れればそうでもない”って」
「言ったけど……」
一度、言葉を飲み込む。
でも、なぜか今は、
ちゃんと伝えなきゃいけない気がした。
「慣れるって……我慢すること、」
「じゃないですよね?」
大和君の目が、ゆっくりと私を捉える。


