鈴村君の裏の顔


「ねぇ……望愛ちゃん。」

大和君が、少し声のトーンを落とす。


「僕、今日完全にオフの日なんだ。」
「今からさ……お茶、付き合ってよ!」


「えっ!?お茶ですか!?」
「……すみません、それはちょっと……。」

私はすぐに首を横に振る。


「今日は、やることがあって……」

私は流石にまだ知り合ったばかりの
人とお茶とかする余裕なんて無く、
失礼がないように断わろうとするが

言い終わる前に、
大和君が私のショップ袋を
持つ反対側の手を取った。


「いいから、いいから。」


「……なっ!!」

そのまま、歩き出そうとする。


「大和君!」
「ちょっと……強引すぎます!」

すると、大和君は振り返らずに、
意味ありげな声で言った。

「そんなこと言っていいの?」
「今から、パフェ食べに行くのに?」


「……えっ。」

今私……誘惑されてる?

「まぁ……望愛ちゃん」
「パフェ好きなのに。」
「その気じゃないなら、残念だなぁ。」

胸の奥で、何かが引っかかる。

……なんでよりによってパフェなの…。

甘くて、見た目も可愛くて、
大好きなデザート。


ちょっと待って!
……なんで、大和君が知ってるの?


喉が、ごくっと鳴る。

パフェ……食べたい。

欲が、顔に正直に出してしまう。


「大和君……なんで?」

私は足を止めて、
大和君の背中に問いかける。


「なんで私が、パフェ好きだって……」
「知ってるんですか?」


望愛ちゃんが不思議そうに僕に問いかける。
俺は、悪びれる様子もなく正直に答えた。


「望愛ちゃんと、」
「一番仲良さそうな子いるでしょ?」
「確か……佐々木さん、だっけ?」


「……っ!!」

由佳の事だ……大和君、由佳から聞いたんだ。


「その子に聞いたんだ。」
「望愛ちゃんが何を好きか、」
「色々教えてくれたよ!」

歩きながら、楽しそうに続ける。


「アニメとか漫画が大好きなんだよね?」
「だから、あの時アニソン」
「聴いてたんだなぁって納得しちゃった。」

やっぱり……由佳の、バカーッ!!
なんでほぼ初対面の人に教えちゃうの?

心の中で、全力で叫ぶ。

どうして、なんでそんなことまでして……。

頭が追いつかなくて、
私は完全に混乱していた。


すると、大和君が立ち止まる。

手を握ったまま、
私の顔を覗き込んでくる。


……手、離して欲しい……なぁ。


「ねぇ……本当に、パフェ嫌?」


「ひ……っ!!」

ちちちちち近っ!

逃げ場がない……


「……い、嫌じゃないです。」

視線を逸らしながら、


「むしろ……大好物、です。」

そう言った瞬間、僕の
頬が一気に熱くなる。




望愛ちゃんの照れる表情を見た僕は、
一瞬、息を止めた。


「……ヤバっ。」

僕はいつの間にか小さく、そう呟く。

胸の奥が、ドクンと跳ねた。

こんなの望愛ちゃん好きになってしまう
じゃん……。
僕はそう心の中で叫んだ後、冷静を装う。


「じゃ、食べに行こっか。」



そのまま、再び歩き出す。

私は、半ば引きずられるように、
5階の飲食店エリアへ向かっていった。

胸の中に残るのは、甘い予感と、
拭えない違和感。

そして、
思い浮かんでしまうのは……

……隼人君の事。

どうして、今、思い出しちゃうんだろう。


再び歩き出した、その瞬間……

私は、ぎゅっと握られていた手に意識が向いて、
思わず足を止めた。


「あの……大和君。」

自分でも分かるくらい、少し緊張した声。


「……逃げないので、」
「手、離してほしいです。」

私が言った瞬間、空気が止まる。


大和は歩みを止め、
ゆっくりとこちらを見た。


「もしかして……」

少し首を傾げて、探るような視線で
大和君は私を見てくる。

「望愛ちゃん、こういうの……」
「慣れてない?」


私は一瞬迷ってから、
小さく、でもはっきり頷いた。


「……はい。」

それから、続ける。

「それに……知り合ったばかりなのに」
「こういうのは、良くないと思います。」


自分の気持ちを言葉にすると、
胸がきゅっと締めつけられる。

あまりこんな事は言いたくないけど、
言わないと伝わらないもんね。

大和は、数秒黙ったあと、
ふっと息を吐いた。

「……わかった。」

その声は、意外なほど素直だった。


「望愛ちゃんが、そう言うなら。」

そして、ほんの少し間を置いてから、
ぽつりと付け足す。


「それに……僕、」
「望愛ちゃんに嫌われるの、嫌だから。」


その言葉に、胸がざわっとする。
そして、2人の沈黙が流れる。


「「……」」

そして……
私は、慌てて首を横に振った。


「よっぽどのことがない限り、」
「私は基本……誰かを」
「嫌いになったりは、しません。」

それは、本心だった。

大和はその言葉を聞いて、
少し安心したように笑い、私の手をそっと離した。
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