幼なじみの偏差値60の不良くんは今日も柔軟剤の匂いがする
「……でさ、中1の時、実は廊下で見かけてたんだよ?」
「は? お前、俺のこと避けてんのかと思ってたわ」
​帰り道、1年分の空白を埋めるように言葉が溢れ出す。
気づけば、もう私の家の前。いつもならここで「バイバイ」なのに、今日はどうしても足が止まらない。
​「あー、もう着いちゃった」
「だな。……じゃあ、俺行くわ」
​背を向けた楓吏を見て、咄嗟にそのシャツの裾を掴んでしまった。
​「待って! 今度は私が楓吏の家まで送る!」
「……は? 逆だろ。普通、男子が送るもんだろ」
​「いいの! まだ話し足りないんだもん!」
​呆れ顔の彼を無理やり引き連れて、今度は彼の家の方へ歩き出す。
偏差値60の彼が「効率悪すぎだろ」なんて理屈を並べるけど、顔は全然嫌そうじゃない。
​彼の家の前に着くと、今度は彼が「お前、一人で帰ったら絶対迷子になるから」と言い出して、また私の家の方へ。
​「……私たち、何回往復してんの?」
「……さあな。お前が帰さないからだろ」
​そう言って笑う彼の横顔からは、やっぱりあの柔軟剤の匂いがする。
家の間にある何でもない道が、今日だけは二人だけの特別なランウェイみたいだ。
​「……明日も、会える?」
「……同じ学校なんだから、当たり前だろ」
​やっと私の家の前で止まったとき、彼は今度こそ私の頭を軽くぽんと叩いた。
「1組と5組だけどさ。……休み時間、気が向いたら行くわ」
​その言葉だけで、明日からの学校が楽しみで仕方がなくなる。
家に入って、窓から遠ざかる彼の背中を眺めながら、私は中2の始まったばかりの夜に、深く、深く幸せを噛み締めた。
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