ハリボテロミオの夏の夢
「……夢?」
突然のことに、頭が追いつかない。
なんだったんだ、今のは。
行き先をなくした腕を動かすのも忘れて、尻餅をついたまま神棚に視線を向けると、そこには確かに置いたはずのワインのボトルがどこかに消えていた。
……夢だと思いたい。
でも、
「ちょっ……!アメ!!!お前、呼ぶだけ呼んで説明もなしに置いてくんじゃねぇよ!!!!」
「久しぶりの仕事ですね!腕がなります!!」
「あれ?ねえねえ、ここってこんなに暗かったっけ?」
置いていかれた猫たちは、各々好き勝手にお喋りしている。
「痛っ!」
とりあえず頬をつねってみた。
うん。普通に痛い。
どうやら、これは現実らしい。
「ったく……アル、後は頼んだ」
「頼んだ。じゃありませんよ、イデ!あなたも働いてください!レテもです!」
「えー、ボクこういうの苦手なんだけどなぁ……」
「もう、人間が困っているじゃありませんか。いいですか、こういう時はまず自己紹介です!」
そう言うと、豹柄の猫がツルを持ってメガネを直すと、ボクの前へ出てきてぺこりと可愛らしくお辞儀をした。
「初めまして。私は豹のアル、ウズメさ……いえ、アメ様の使いであなたの演技が上手くなるようにお手伝いをいたします」
「は、はぁ……」
どうやら、この猫たちはあのアメちゃんの使いらしい。
でもって、
「……豹、なんだ」
「えぇ!美しい毛なみでしょう?何たって毎日しっかりブラッシングしてますから!あ、ちなみにあっちのガサツなのが獅子のイデ。で、こっちの騒がしいのが虎のレテです」
「おい、アル!ガサツって誰のことだよ!?」
「騒がしいってボクのこと?」
「あなたたち以外にいないでしょう?」
またぎゃいぎゃい言い合いを始める三人……いや三匹?
ライオンと豹と虎……そう紹介されたけど、いやこれ、どこからどう見ても魔法少女のマスコット的立ち位置の猫でしょ。
「もう、そんなことはどうでもいいんです!」
アルと名乗ったネ……もとい、豹は二匹を静止すると、くるっと僕の方に向き直った。
「人間、あなたの名前は?」
「え、えっと……、守田…… 玲央」
名前を聞かれて、思わず素直に答えてしまう。
「玲央ですね。いい名前です」
にっこり笑って、アルは改めて僕の前に立った。
その両隣に、残りの二匹も同じように立つ。
「これからよろしくお願いします」
そう言って、アルが僕に手を差し出した時だった。
ピコン。
場に似つかわしくない電子音が響く。
聞き覚えのあるその音は、カバンに入れていた僕のスマホの通知音だ。
って、ちょっと待って。
そういえば、今……何時だ?
僕は慌てて入り口付近に置いていたカバンへ向かうと、スマホを出して画面をつける。
そこには友人から「まだ学校来てないの?」と簡単なメッセージだけ送られてきていた。
時計を見れば、練習開始まで後5分だ。
「……やばい!部活に遅れる!!!僕、急ぐから!!!」
また後でね!
そう三匹に言い残して、僕はカバンを引っ掴むと急いで部室へと向かった。