ハリボテロミオの夏の夢


「……はぁ!心臓飛び出るかと思った!」


ようやく、朱里さんの姿が見えなくなったので、僕は大きく息を吐く。
……本当に、やばかった。


「うわぁん!ごめん〜!玲央ぉ〜!!!」

「いいよいいよ。レテが悪いわけじゃないから」


滝のように涙を流しながら、僕に抱きついてくるレテ。
その頭を、僕はそっと撫でた。


「しかしすごいですね……玲央……」

「よくあの解像度のレテができたな」

「え?全然だよ。表面的にしかレテになれてないし……レテのことをよく知ってる人が見たら、大分違和感があったんじゃない?」


まさかレテになりきることになるなんて思ってなかったから、本当に薄っぺらい演技になってしまった。
あれだったら、すぐにボロが出る。


「もっとレテやみんなのことを知っておけば、もっといい演技ができたのに……ごめんね」

「えぇん……!いいんだよぉ!玲央は悪くないよぉ!」


えぐえぐと、レテはまだ泣き続けている。
なるほど、レテは突然のこういう事態には弱いのか。


「だけどよぉ……お前、演技できるんじゃねぇか」


そう言ったのはイデだ。


「あんだけ嫌がるもんだから、てっきり大根かと思ってた」

「……まぁ、誰も……誰も僕を役者として見てなかったから……ね」

「?」

「さ、もう帰ろう!明日はゲネプロだよ!」


頭と両肩に三匹を乗せて、僕は家路を急ぐ。

そう。明日は大会前日。
朝から機材の搬入に始まって、順番に本番のステージを使った直前の舞台練習がある。
絶対に遅刻は許されない。


「明日のために、家でゆっくり休もう!」

「そうですね」

「そうだな」

「……うん」


そうだねぇ。と、レテが答える。
でも、レテはどこか上の空だった。

 
「もっとみんなのことを知る……かぁ……」


僕たちも、もっとちゃんと玲央のこと知った方がいいのかも……。
涙を拭きながら、ぼそっと、レテが呟いた声は僕に届くことなく、夜の街の明かりに吸い込まれていった。
 
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