ハリボテロミオの夏の夢

第四幕


「玲央!それこっちにおいて!」

「はい!」

「あー、待って待って、先にこれ持っていくから!」


大会前日。
地方大会を勝ち抜いてきた10校が、朝から会場になる劇場に集まっていた。
あちこちから大きな声が飛び交って、会場内はバタバタしている。

大会自体は全部で2日間の日程で行われて、僕たちの出番は2日目の3番目だ。
なので、今日の会場練習も8番目に行うことになっている。
それまでの間に、機材の搬入やできる限りの確認を行わなければならない。


「やっぱり、公演前ってバタバタしてるねぇ」

「この空気……いい緊張感ですよね」

「ちょっとみんな!邪魔にならないように静かにしててね」

「わぁってるって。俺様たちは敵城視察だ」


そう言って、イデが二匹を連れていく。
多分、会場で他の学校のゲネプロの様子を見に行くんだろう。
なんだかんだで、イデはあの三匹の中で一番演劇が好きみたいだし。


「本当、自由だなぁ……っと!」

「おわっ!?」


ぼーっとしていた僕の後ろから、ドンっと、誰かがぶつかってきた。
慌てて、僕は倒れそうになったその人の体を受け止める。


「だ、大丈……ッ」


夫?
そう言い切る前に、僕は言葉に詰まる。
目に飛び込んできたのは、くりっとした丸い琥珀色の目だ。
いつも遠目に見ていたそれが、すぐ目の前にある。
いや、昨日見た。
見たけど、昨日は色々必死すぎて、それどころじゃなかったんだ。

うわぁ……改めて見ると、めちゃくちゃまつ毛長い。
ってか口も結構小さくない?これであの声量が出るとか、すごすぎるんだけど……。 


「ご、ごめん、玲央くん!大丈夫!?」

「え、あ……うん!ぼ、僕は大丈夫!!!」


と、しどろもどろになりながら、僕は朱里さんに答える。


「ごめんね。前見えてなくってつまづいちゃって」

「き、気をつけて……朱里さんに何かあったら大変……」

「朱里!大丈夫か?!」


僕が言い切る前に、遠くからやり取りを見ていた蘭くんが駆け寄ってきて、僕から朱里さんの体を奪っていった。


「うん。大丈夫。玲央くんが受け止めてくれたから」

「ったく……気をつけろよな……」

「あはははは。面目ない」

「もうすぐ俺たちの番になるから、急げよ?」

「うん。わかった。ありがとう玲央くん!もうすぐ私たちの練習時間だから、いそご!」

「う、うん」


そう言って、朱里さんは行ってしまう。
嵐のようなやりとりに、思考が追いつかない。

とりあえず、僕は落とした荷物を拾う。
どうやら、昨日のことはバレてないみたいだ。


「……よかった」

「何がよかったんだ?」

「ひっ!」


何驚いてんだよ……。
そう言うのは蘭くんだ。
てっきり、朱里さんと一緒に衣装を着に行ったと思っていたのに、まだここにいたらしい。


「あ、え……と、その……ご……ごめん……」

「あ?なんで謝ってんだ?」

「あ、だって……朱里さん、蘭くんの彼女……なのに……」


そう伝える。
だって、変な誤解があってはいけないから。


「彼女?俺が?違う違う!」


蘭くんは目を丸くして、すぐに顔の前で手を左右に振った。


「へ?そうなの?」

「そうだよ。あいつ、ガキの頃からの片思い拗らせてんだから」

「へぇ……」


そうなんだ。
確かに、昨日もずっと好きな人がいるって言ってた。

あれ、本当だったんだ。


「んなどーでもいいことより、目の前のことに集中しろ!もうすぐ俺たちの番なんだぞ?」

「そう、だね」


ふわっと、気持ちが軽くなる。

そうか。
蘭くん、朱里さんと付き合ってなかったんだ。


「俺も早く着替えねぇと……お前も制御室だろ?」

「う、うん!」

「お互い、頑張ろうな!」


そう言って、蘭くんが僕の背中を叩く。

その痛みでぽわぽわした気持ちが、一気に吹き飛んだ。

そうだよ。何考えてるんだ、僕!
今は大会に集中!!!

気持ちをなんとか切り替えて、僕は制御室へ向かった。
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