ハリボテロミオの夏の夢
「ん……」
あれ……?
ここは、どこだ?
目を開ければ、そこには白い天井があった。
LEDも白色なので、眩しくて眼を細める。
おかしい。
さっきまで舞台にいたはずなのに……。
舞台は……?舞台はどうなったんだ?
慌てて身体を起こして、周りを見渡す。
目に入ってきたのはパイプベッドにクリーム色のパーテーション。
一つだけ置かれた棚の上には、救急箱が置かれている。
どうやら、ここは救護室みたいだ。
「玲央!気がついたのか?!」
「汐恩……?」
僕が周りを見ていると、汐恩がパーテーションの奥から現れた。
「よかった……!お前、毒薬飲むシーンでガチで倒れたんだよ。で、幕が上がっても起きなくて……マジで心配したんだからな!」
「そうだったんだ……ごめん」
まさかそんなことになっていたなんて……。
僕は迷惑をかけたことを、素直に謝る。
「まあ、軽くのぼせただけだろうって。待ってろ。監督呼んでくるから」
「あ、うん……」
そう言って、汐恩は救護室から出て行った。
部屋には、僕一人。
……だと思ったんだけど。
「お疲れ」
「お疲れ様です、玲央!」
「玲央、お疲れ様〜!」
みんなも心配してくれていたようで、ずっと僕のそばにいてくれたらしい。
「あッ……」
ありがとう。
そう伝えるつもりで、口を開く。
けれどみんなの顔を見たら、それより先に感情がぶわっと湧き上がってきてしまった。
やったんだ。
できたんだ。
僕は、舞台の上で、
大勢の観客の前で、
ロミオになれたんだ。
気持ちが溢れ出て、止められない。
涙が、次から次へとこぼれ落ちて、シーツを濡らす。
感謝の気持ちを伝えるつもりだったのに、喉から全然声が出なかった。
「ッ……あ、ぁ……ッあ!!!!」
急に、手も震え出す。
今になって、急に舞台に立った時のプレッシャーがやってきた。
本当に、みんなのおかげだ。
みんなが僕に、勇気をくれたから……だからこうやって舞台に立つことができたんだ。
「みん、な……あり、がと……ッ!ありがとう!!!」
泣きじゃくる僕を、みんなは黙って優しく抱きしめてくれた。
しばらく泣いていたけれど、ゆっくり呼吸が整って、冷静さも戻ってくる。
「そういえば……」
涙を拭きながら、僕はみんなに聞く。
「大会って結局……」
「玲央!」
「玲央くん!」
「先輩!」
突然、部員のみんなが救護室に入ってきた。
急いで涙を拭いて、みんなの方を見る。
でも、視界はぼやけたままだ。
それでも、監督の手に握られたトロフィーは、しっかり目に入った。
「あ……それ……」
そこにははっきりと、「最優秀賞」と刻まれている。
「玲央くんのおかげだよ!お疲れ様!!!」
「へあっ?!」
そう言って、朱里さんはいきなり僕に抱きつく。
思わず、変な声が出てしまった。
って、ちょっと待って。
朱里さん何してるの?!
どうしたらいいかわからず僕が固まっていると、上から言葉が降ってきた。
「朱里、玲央は起きたばっかりなんだぞ?」
「そうだよね?!ごめん、玲央くん!」
「ったく……」
蘭くんに言われて、朱里さんは僕から離れる。
心臓がバクバクしていたのに、蘭くんの顔を見たら冷静になった。
……今日、見に来てたんだ。
「蘭くん……」
「……なんだよ、ったく最後の最後まで遅刻しやがって」
「あ……ご、ごめん」
咄嗟に、僕は謝った。
結果的に最優秀賞をとることができたけど、それはあくまで結果論だ。
蘭くんが言うように、第一幕には間に合ってないからみんなに迷惑をかけたし、僕と蘭くんではロミオの解釈も違ってたから、蘭くんの思うロミオじゃなかったはずだ。
きっと怒っているに違いない。僕は甘んじて蘭くんの怒りを受け止めるために身構えた。
けれど、
「でも、良かったよ……お前のロミオ」
「え?」
「お疲れ」
それだけ言って、蘭くんは救護室から出ていってしまう。
思っていなかった言葉に、僕は何も言うことができなかった。
「おい、お前ら!玲央はもう大丈夫みたいだから、撤収準備だ!!!」
「はい!」
「玲央、お前はギリギリまで休んでろ」
「は、はい!!!」
監督にそう言われて、みんなは足早に撤収準備に向かってしまった。
けれど、
「玲央!」
汐恩は最後まで部屋に残っていた。
なんだろう?そう思っていたら、汐恩が無言で拳を突き出す。
それを見て僕は笑いながら、汐恩の拳に向かって同じように拳を突き出した。
そして、
「お疲れ!」
二人でそう言って、コツンっとグータッチをする。
改めて、今日の公演が無事に成功で終わったんだと実感した。