ハリボテロミオの夏の夢
「はぁ……」
なにやってんだか。
稽古場横のロッカールームで、自分のロッカーの扉に手をつきながら項垂れる。
鉄製のロッカーはひんやりとしていて、手が冷たい。
しんとしたロッカールームとは裏腹に、稽古場からは、みんなの練習する活気のある声がかすかに聞こえた。
目をそっと閉じて、耳を澄ませてみると、さっきの場面をもう一度練習しているみたいだ。
耳に意識を集中させたまま、僕は小さく息を吸う。
そして、
「……なに、こんな塀くらい、軽い恋の翼があればなんとでも。あなたの身内ですら、恋の障害にはなりえません」
ぽつり、呟く。
「殺されるよりも、私にはあなたの瞳の方がよっぽど恐ろしい」
「恋の神に導かれて」
「……」
僕の声が、ロミオの演技をする蘭くんの声にぴったりと重なった。
ゆっくり目を開けて、ロッカーに触れていた手を拳に握る。
こんなセリフ、覚えてもなんの意味もないのに。
「……何やってるんだろ」
大会に集中しないといけないのに、全然集中できていない。
理由は、わかってる。
わかっているけど、もう決めたじゃないか。
「この大会で、もう演劇に関わるのは……やめるんだ」
演劇が好きで、せめて裏方でもいいから関わりたい。
入部した時にはそう思って、これまでずっと照明係を頑張ってきた。
でも、
でも……。
「……」
握っていた手に力が入る。
中途半端で終わらせたくない。
目指すのは最優秀賞。その気持ちに偽りはない。
みんなと同じだ。
同じだ……けど……。
けど……。
「ッ……!」
パンっ!と、僕は勢いよく自分の両頬を叩く。
けど、じゃない!
自分で決めたんだから、後悔のないように僕は僕のやらなきゃいけないことをやらないと!!!
これが最後なんだ!最後くらい、全部やり切って終わらせなきゃ!!!
「明日はしっかりやるぞ!」
自分にそう言い聞かせて、僕は制服に着替えてロッカーの鍵を閉める。
ジンジンと頬が痛い。痛いけど、すっきりした。
これなら、きっと明日は大丈夫だ。
遠くに聞こえる練習の声に聞き耳を立てながら、僕は部室を後にした。