ハリボテロミオの夏の夢
旧校舎は校内の北側に位置していて、演劇部の稽古場を含めた一部だけが残っている。
現在は使われていなくて、立ち入り禁止だ。
なので、ほとんど人が近寄らない。
そんな旧校舎に、僕はこっそり侵入した。
何ヶ所か窓ガラスがないところがあるので、忍び込もうと思えば簡単なのだ。
見つかると面倒なので、バレないようにそっと、演劇部の稽古場があった場所に向かう。
窓から朝日が差し込んで、室内は思った以上に明るかった。
でも、当然手入れはされていないので、廊下はギシギシと軋む。
その音も気にせず突き当たりまで進むと、稽古場と書かれたプレートがいまにも落ちそうになっていた。
扉には鍵がかかっていない。
ずいぶん昔に壊れたようで、扉がしっかり締まらなくなっているのだ。
僕はそっとその扉を開けると、埃っぽい室内へ足を進めた。
入って正面に簡易な舞台。その手前は広く場所がとられていて、普段の稽古に使われていたんだと思う。床には様々な傷がついていて、きっと過去の演劇部部員が練習でつけたものなんだろう。
右手には粉々に割られてしまっているけれど、大きな鏡が備え付けられていたようで、いつでも自分の姿を確認できるようになっていたみたいだ。
そして左手の扉の近くにあるのが、
……例の神棚だ。
古びたそこには、木でできた板に白い紙が巻かれているお札のようなものが、中央に置かれている。
紙には何か文字が書いてあるけれど、劣化していて読めない。
そしてその両サイドには、何も挿さっていない白い花瓶が置かれていた。
なんてことはない。普通の神棚だ。
「さっさと供えて部活行こ……」
荷物を置いて、僕は紙袋から中身を取り出す。
思った通り、中身は瓶だった。
何気なしにパッケージを見る。
そこに書いてあったのは、
「ろま……んえ……こんてぃ……、ッ!?!?ロマネ…コンティ!?!?!?」
まさかの酒だった。
僕でも知っているレベルの、めちゃくちゃ高いワイン。
……まじかよ。
何考えてるんだ。
「……未成年に酒なんて持たせて……」
僕は、ずっしりと重い瓶を見つめる。
これ、先生に見つかったらどう言い訳しよう……。まず初めに浮かんだのがそれだった。
万が一にも、飲酒を疑われようものなら、一発で夏の大会の棄権が決まるだろう。
そんなわけにはいかない。
いやでもこれ、もうこのまま放置するのが一番いいんじゃないか?
何を聞かれても、知らぬ存ぜぬで押し通す他ないよな。
……うん。
よし、そうと決まれば、さっさとやることを終わらせよう。
僕は神棚の真ん中に、そっとワインボトルを供える。
そして神棚の前に立って礼を二回、拍手を二回、そして一回礼をする。
よし。これで終わりだ。
早く部活に行こう。
そう思って振り返った時だった。
ふと、舞台に目がとまった。
窓の関係なのか、舞台の上だけライトアップされたように光っている。
早く部活に行かないと。
そう思うのに、自然と僕の脚は舞台に向かっていた。
近づいてみると、不思議と舞台の上は埃が少ない。
これなら上がれそうだ。
「よい……しょっと」
舞台中央から、よじ登る。
改めて舞台の上に立つと、周りがよく見えた。
それに、立ってみると余計に朝日に照らされているのがわかる。まるでスポットライトを浴びているみたいだ。