ハリボテロミオの夏の夢

「……」


昨日練習していたロミオとジュリエットの第2幕第1場は、ロミオが舞台袖から現れるところから始まる。
仮面舞踏会で、お互いが仇敵同士であることを知らずに恋に落ちるロミオとジュリエット。
その二人が、互いの素性を知ってもなお、惹かれ合うことを止めることができない。
そこでロミオがジュリエットの家に忍び込んで、ジュリエットに会いに行こうとするシーンだ。

僕は舞台の向かって左そで、いわゆる下手(しもて)に向かうと、すっと息を吸う。
そして、ゆっくりと舞台に姿を出す。


「……言いたいようにいえばいい。奴らはこの痛みを知らないから、好き勝手言えるんだ」


友人にジュリエットのことを揶揄われたので、このセリフだ。
この時点で、ロミオはすでにジュリエットに恋をしている。
というか、ジュリエットにメロメロで周りの話は何も聞かないし、周りも何も見えていない。

見えているのは、


「なんだ、あの光は?この方角は東、とするならばジュリエットは太陽だ!俺の思い人だ!!あぁ、なんと美しい瞳だろう。夜空にまたたく星に勝るとも劣らない。いや、きっと星の方が見劣りしてしまう。それほどまでに美しい」


ジュリエットだけ。
だからバルコニーから現れたジュリエットに向かって、ロミオは手を伸ばしながらこう言い放つ。

それはジュリエットも同じで、ロミオに気づいていないジュリエットは、ここであの有名な「あぁ……ロミオ……ロミオ!あなたはなぜロミオなの?」のセリフから始まるロミオへの想いをぶちまける。
名前がロミオでなければいいのに。そうであれば愛し合うことができるのに、と。
それを盗み聞きしてしまったロミオは、


「あぁ、なんて美しい声なんだ。もっと聞いていたい。」


ジュリエットのことが好きすぎて、思わず心の声がダダ漏れになってしまう。
当然、その声はジュリエットに聞こえてしまって……


「だれ?そこにいるのは」


と、ジュリエットは誰かにロミオへの思いを聞かれたれいたことに驚いて、周囲を見渡す。
この段階では、まだジュリエットは物陰に隠れているのがロミオだとわかっていない。
ロミオはロミオで、先ほどのジュリエットの想いを聞いてしまったせいで、下手に名乗ることができなくなってしまう。
名乗れば彼女を困らせてしまうからだ。


「……なんと名乗ったものか……。あなたの好きに呼んでくれて構いませ……ん?んんんん?!?!」


……って、ちょっと待って!!!
今、ジュリエットのセリフが聞こえなかった?

空耳?
そう思った時だった。


「ちょっとー!セリフ飛ばすなんて初歩的なことしないでよね!」


舞台には、なんのセットも置いていない。
置いていないはずなのに、それはジュリエットがいるであろうバルコニーくらいの高さから、ふわりと僕の前に舞い降りてきた。


「全く!困ったロミオだわ!」

「で、で、で、で……っ!!!!!」


ドンっと、僕は尻餅をつく。本来、痛いはずなのにそんな痛みよりも驚きが勝った。
人間、本当にびっくりすると、うまく叫び声を上げることができなくなるらしい。
なるほど、覚えておこう。

……じゃない!!!!!


「でたーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」

< 9 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop