【完結】Blackberry

15 別宅へ

side一ノ瀬燐牙

梨紗は猫と中庭で遊ぶと言った。
猫はかなり梨紗に懐いており、彼女の動物好きが見てとれた。

俺が、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる時…

兵藤がやって来た。

「何か動きはあったか…?」

「えぇ。
悪い報告にはなりますが、この屋敷包囲されています。」

「…そうか。」

「このままこの屋敷に彼女を置いておいても良いのでしょうか…?」

「…彼女とは?」

「もちろん、梨紗さんの事です。
どうでしょうか?
ダミーの車を出して、同時に梨紗さんを別宅に移動させる、というのは…?
このままここにいても、もしかしたらこの場が戦場になる可能性もあります。
差し出がましい事を申し上げるようですが…」

兵藤は多少俺の顔色を伺いながらも、はっきりとそう言った。

「考えておく…」

俺はそれだけ答えた。
いや、それだけしか答えられなかったのかもしれない。

「ねぇ、みーこ。
一ノ瀬さんって…」

俺が中庭に出ると彼女は芝生の上で猫と寝転がり、そう尋ねていた。

「俺がどうしたって?
つか、その猫みーこって名前なのか???」

「い、一ノ瀬さん…!」

彼女はガバッと起き上がった。
その彼女の膝の上にみーこが乗った。

猫め…
梨紗の膝の上に乗りやがって…

俺はそんな猫に多少嫉妬しながら、梨紗の隣に座った。
彼女の髪はキラキラと輝いていて、いつもよりも、柔らかそうに見えた。

「で、俺が?」

「何でも無いですよ!
それより、一ノ瀬さんこそ、私に用があるんじゃ…?」

彼女は鋭い。

「なぁ、梨紗。
少し離れ離れになってもいいか…?」

「え、どう言う意味…?」

「ここは危険だ。
完全に敵に包囲されているし、もしかしたらこの屋敷が戦場になるかもしれない。
だから…
この戦いが終わるまで…
別宅に避難しないか?」

「別…宅…?」

「あぁ、温泉地で有名な場所に別宅があるんだ。
良いところだぜ?
だから…」

「一ノ瀬さんは…私に…そこに行って欲しい…の?」

彼女の瞳には涙が溜まっていた。
俺はそれをまっすぐに見る事は出来なかった。

やっと、「あぁ。女が居ても邪魔なんだ。」と、最後の威勢で答えた。

「…そっか。」

行きたく無いって言ってくれ…
俺のそばに居たい、と…

心の中ではそう思うのに、口から出る言葉は見栄っ張りだった。

「分かった…」

彼女はみーこを撫でながらそう答えた。

「…真夜中に出るから、用意しておいてくれ。
兵藤達をつける。」

「うん…」

彼女はとても儚くて、そしてそれよりも美しかった。

離したく無いんだ…
どうして、行ってしまうんだよ…

けれど、彼女はその夜、屋敷を出て行った。
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