【完結】Blackberry

43 ホワイト化計画2

鬼千会ホワイト化計画①が始まって一週間。

私は確信していた。

――これは、思ってた以上に大変だ、と。

「じゃあ今日は“資格取得支援制度”について説明します」

本部の会議室。
ホワイトボードの前に立つ私。

目の前には――
腕組み、腕組み、腕組み。

元武闘派、現・飲食店スタッフ(仮)たちがずらり。

「資格ってのはね、
 “国がこの人はちゃんとした仕事できます”
 って証明してくれるものなの」

「国ぃ?」

「……警察とは違うんですか?」

「違います」

即答。

「捕まえる側じゃなくて、
 応援してくれる側」

「……そんなの信用できねぇ」

ですよねー。

私は気を取り直して続ける。

「例えば――
 調理師免許」

「おう、料理なら任せろ」

前列の強面さんが胸を張る。

「包丁の扱いは完璧だぞ」

「……その包丁、
 人に向けて使ったことありますよね?」

「ある」

即答。

「それは、
 調理師試験では減点です」

「ちっ」

減点どころじゃない。

「次。
 電気工事士」

「感電したことならある」

「それは経験じゃないです」

「フォークリフト」

「ぶつけたことなら――」

「経験じゃありません」

この調子である。

私は深く息を吸った。

「いいですか皆さん」

真面目なトーンに切り替える。

「資格は、
 “過去を消す魔法”じゃない」

静かになる。

「でもね」

私は、一人ひとりを見る。

「**未来を選ぶ権利**にはなる」

一瞬、
場の空気が変わった。

「この先、
 組がどうなっても」

「“俺はこれが出来る”
 って言えるものがあれば、
 生きていける」

誰かが、小さく呟いた。

「……そんなもん、
 考えたことなかった」

私は頷く。

「だから、
 鬼千会が費用、教材、講師、
 全部出します」

「え?」

「タダです」

「……裏は?」

「ありません」

「……逆に怖ぇ」

その時、
会長室の扉が開いた。

燐牙だ。

腕を組んで、
壁にもたれかかってる。

「裏はある」

一斉に視線が集まる。

「途中で逃げたら、
 二度と文句は言うな」

「やるなら、
 本気でやれ」

……会長、
圧が強い。

でもその一言で、
皆の背筋が伸びた。

「ちなみに」

私は補足する。

「漢字読めない人向けに、
 **小学生レベルからの教材**も用意しました」

「誰が読めねぇって?」

「名前書けない人、
 昨日三人いました」

どよめき。

「……あれは筆圧が」

「言い訳です」

その日の夜。

勉強会が始まった。

畳に正座して、
鉛筆を持つ強面たち。

「“請求書”は、
 せい・きゅう・しょ」

「……せい、
 きゅう……」

「『殺』じゃないです」

「……似てるだろ」

似てません。

でも。

問題を解けた瞬間、
小さくガッツポーズをする姿。

「俺、
 分かったぞ」

そう言って笑う顔は、
どこか子供みたいだった。

その夜、私は燐牙に言った。

「ね」

「なんだ」

「この人たち、
 本当は優秀だよ」

燐牙は、
静かに頷いた。

「……ああ」

「ただ、
 誰も教えなかっただけだ」

鬼千会ホワイト化計画②。

それは、
“勉強”という名の戦いだった。

そして私は思う。

――この組、
 本当に変われるかもしれない。
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