『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました【短編】
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シャルロッテとエドゥアルトの婚約は、二人が物心ついた頃には既に決まっていた。
初対面は互いに好印象で、それからも友好的な関係が続いた。
エドゥアルトは王太子の身分ゆえに少々傲慢な面もあったが、シャルロッテは王族とはそういうものだと思っていたし、両親からも「王太子殿下の意向は絶対。婚約者として一番に殿下を尊重すべき」だと徹底的に叩き込まれた。
なのでシャルロッテにとってエドゥアルトは絶対的存在で、彼女の生活……いや人生は彼が全てだった。
エドゥアルトもそんな従順なシャルロッテのことを気に入っていたし、彼女は己の『所有物』だと思っていた。二人の関係は、山も谷もなくずっと平和そのものだった。
二人は貴族の通う学園に入学してからは、放課後に王太子専用の馬車に乗って共に王城へ帰っていた。そして彼は執務や継承者教育、彼女はお妃教育や彼の政務の手伝いをおこなっていた。
待ち合わせ時間は、授業が終わって30分後。場所は中庭の噴水前。
シャルロッテは王族を待たせてはいけないと、遅くとも待ち合わせ時間の10分前には到着して、ぴしりと姿勢を正して彼を待っていた。
美しい侯爵令嬢の立ち姿は誰もが見惚れて、思わず足を止めるほどだった。
エドゥアルトはいつも時間ぴったりに到着していた。
「待たせたね」
「いいえ」
まるで挨拶のようにお決まりの会話をして、王太子のエスコートで馬車に乗り込む。それから城に着くまで他愛のない会話をする時間が、シャルロッテのささやかな楽しみだった。
しかし、学園に入学して半年ほど経った頃、エドゥアルトは徐々に待ち合わせに遅刻するようになった。
最初は5分ほど。それが10分、15分……と、どんどん伸びていって、今では一時間は当たり前になった。
王太子と親しくなりたい貴族は山のように多い。なので彼はいつも大勢の取り巻きを抱えていた。
彼はそれらを身分問わず全て相手にしていたので、放課後に時間を取られるのも仕方ないな……と、シャルロッテは思った。
むしろそんな大変な彼の力になりたいと、これまで以上に王太子の執務も代わりに励むようになった。
有事の際は、国王や王太子の代理を妻が務めなければならない。今はその予行練習だと思うと、彼のためにもっと頑張ろうと思った。