『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました【短編】
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エドゥアルトは学園入学で運命の出会いをした。
男爵令嬢のローゼだ。
学園では身分関係なくクラス編成をおこなっていたので、彼女とは偶然同じクラス、しかも隣の席になった。
彼は、明るくて笑顔の絶えない彼女を一目で気に入った。
いかにも貴族然としたポーカーフェイスのシャルロッテとは違って、喜怒哀楽を素直に表現する彼女が眩しかった。
二人はすぐに親密になり、やがて恋人同士になった。彼は限られた学園生活だけでは物足りず、もっと彼女と一緒にいたいと思った。
そこで、放課後に王族専用の貴賓室で彼女と過ごすようになった。
次第に、エドゥアルトはシャルロッテとの待ち合わせをなおざりにするようになった。
最初は5分ほどから始まった遅刻は、やがて彼の時間の感覚を麻痺させて、今では平気で一時間以上も彼女を待たせるようになった。
遅刻は当たり前。謝りもしない。馬車で向き合っていても、彼は心ここにあらずといった様子。
名残惜しそうに窓から校舎を眺める彼に、彼女は戸惑った。
だが、幼い頃より「常に王太子殿下を優先するように」と教育されてきた彼女は、特に怒ったり質問責めをするような真似は決してしなかった。
侯爵令嬢が一時間以上も姿勢を崩さずに王太子を待ち続けている姿は、今では学園中の名物になっていた。
主にその見惚れんばかりの高貴な美しさが囁かれていたが、令嬢たちのあいだでは長時間も婚約者を待たせる王太子に眉をひそめる者も多かった。
ある時、シャルロッテは親しい令嬢から「そんな式典時みたいな姿勢でただ待っていないで、読書や刺繍でもしてればいいのに」と言われたことがある。周囲の令嬢たちも同意して、不誠実な王太子を責め立てた。
しかし、低い身分の者が高い身分を待つ際に『暇つぶし』などをおこなうのは非常に無礼な行為にあたる。
ましてや相手は王族だ。侯爵令嬢という立場では、姿勢を崩さずにひたすら待つほかなかった。