【WEB版】無能才女は余命わずかなようなので、 最後に好きにさせていただきます ~クズ家族と離れたら健康になるどころか、稀代の才能が開花しました~
 翌朝、鳥のさえずりが聞こえる。
 薄っすらと瞼を開けると、見慣れたいつもの寝室だった。

 私、昨日、街へ行って――。

 ぼんやりした頭のままベッドで身を起こした。

 そこでハッとする。
 寝間着ではなく、服のままで寝ていたからだ。

 私、昨日、家に帰ってきてから――。

 アレクにすべて話したことを思い出す。もちろん、アレクに背中をさすられながら号泣したことも。

 わ、私って奴はぁぁ~~!!

 思い出すと羞恥で頭をかきむしりたくなる。

 アレクに抱きついたよねぇ? しかも、しがみついて号泣したよね!? 

 そっと背中をさすられて、まるで幼い子供のようにワンワン泣いたっけ。

 そして――まさかの寝落ち!! 一日街を歩き回っていたものだから、疲れもあったのだろう。

 でもベッドで寝ていたということは、アレクがここまで運んでくれたのだろう。

 うわぁぁぁぁ!!

 恥ずかしくなり、ベッドの中で身もだえて悶絶する。

 でもアレクはどうしたのだろう。私を寝かしつけてから帰ったのだろうか。
 次に会った時、どんな顔をしていいのかわからない!

 頭を抱えてしばし悩んだあと、あきらめて顔を上げる。
 止めよう、考えても仕方ない。まずは顔を洗ってサッパリしよう。泣いたせいで目も腫れているし。

 ベッドから下りてキッチンに続く扉を開ける。

「――起きたのか?」

 ふとソファで横になる人物が眠そうに目をこらし、声をかけてきた。

「わっ……! い、いたの!?」

 まさかこんなにすぐのご対面になるとは思わず、心の準備ができていない。それに私は寝起き! いや、向こうもだけど!!

 アレクは横たわっていたソファから身を起こす。

「ああ、勝手に帰るのもどうかと思ったからな」

 あのソファでは長身の彼にとっては窮屈だっただろう。

「ごめんなさいね、狭かったでしょう」

 これでは疲れが取れないはずだわ。

「ベッドで私の隣で眠っても良かったのに」
「――本気で言っているのか?」

 アレクの声のトーンが下がる。

「あら、私のベッドは広いのよ」

 幼い頃、ここに来た時、母と一緒に使っていたベッドなので充分なスペースはある。
 アレクは私の顔をジッと見つめている。

 そこでハッとした。

 私ってば、なんてことを言い出しているの!

「ち、違うの! 深い意味はなくてね!! う、うちのベッドは広いのよ!! そう、特別に疲れが取れるの!!」

 なに言ってるんだ、私。

 挙動不審になった私を見て、アレクはクッと肩を揺らして笑う。

「魅力的なお誘いだな。では、次回は遠慮なく、共に寝るとしよう」
「っ、さ、誘わないわよ! 次回なんてないから、遠慮して! そもそもあの別荘に住んでいる方は、私よりもずっと高級なベッドを使っているはずでしょう!」

 真っ赤になって反論すると、アレクは声を出して笑う。

「それだけ言えれば大丈夫だ。元気になったみたいだな」

 アレクは私に近づき、手を伸ばす。そっと頭を優しくなでる手つきに頬が赤くなる。

「こ、紅茶を用意するわ」
「ああ」

 動揺して赤くなった顔を見られまいとサッと顔を逸らす。ドキドキしながらもアレクに背を向け、ティーカップを準備する。紅茶の香りを感じると心が少し落ち着いてきた。

「どうぞ」

 テーブルにそっと紅茶のカップを差し出す。二人で向かい合って座り、穏やかな時間が流れる。

「――それで余命のことなのだが」

 紅茶を飲み終えたアレクが私の目を見つめ、切り出した。

「必ず理由があるはずだ。いきなり胸の痛みがなくなるのもおかしい。なにか思いあたることはないのか?」
「思いあたること……」

 アレクに問われ、ポツリとつぶやく。もしかしてアレが関係するかもしれない――。

 紅茶のカップをテーブルに置くと無言で立ち上がる。そのまま本棚の前に行き、棚の上から二段目、本に囲まれている一か所に置いていた瓶に手を伸ばす。

「余命宣告されてからこの薬、飲むのをやめてしまったの。それまでずっと飲んでいたわ」

 母が私のために残してくれた薬、悪いものではないと思いたいのだけど……。

「借りてもいいか? 成分を調べてみよう」

 私もずっと気になっていた。母はどんな気持ちで私に薬を残したのだろうと。

「ええ、お願い」

 私がうなずくとアレクは瓶をそっと手にし、しばらく見つめた。その後、上着の胸ポケットへとしまった。

「あと――」

 アレクは手を組んでなにか言いたげに私を見つめる。彼のかしこまった態度に身構えた。

「今後はなにかあったら、すぐ相談して欲しい」

 アレクの真剣な眼差しは、私をとらえて離さない。

「昨日、君から話を聞き、すごく動揺した」

 そんな風には見えなかった。私の方が先に泣き出してしまったから、隠したのかもしれない。

「君が本当に残りわずかの命だとしたら、自分にはなにができるのかと思った。それと同時に君が本当にいなくなったと想像したら、震えるぐらい怖くなったんだ」

 やはり余命なんて話をされたら、彼もすごく驚いたのだろうな。冷静に見えていたけれど重い話だもの。

「いろいろありがとう」
「心配するな。恋人同士だろう、俺たちは」

 フッと笑うアレクだけど、顔が真っ赤になった。

 そうだ、余命の件があったからこそ、恋人を申し出たんだった。

 でも余命が誤診だった今、私たちの恋人関係を解消するのはいつになるの?

 どうしよう……。

 視線をさまよわせていると、アレクはそっと私の頬に手を添えた。

「離す気はないからな、俺は」
「えっ」

 見透かされた気持ちになり、胸が大きく跳ねた。

 アレクのまっすぐな視線から、逃げられないと感じた。
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