それぞれの幸せ
 永遠に一緒に、だなんて。
 そんな純粋な願いを許される立場じゃない。

 百合香は、雄二の正妻とお嬢さんの幸せを踏み躙る立ち位置にいる女なのだから。

 それでも。

(もし、それでも……あのブーケが私のところへ来たら――)

 そのときは、逆の意味として受け取ろうと思った。

 永遠に一緒に、ではなく。
 永遠にさよならをするための花束として――。

(雄ちゃんから離れる)

 佐山が言ったみたいに、全く別の場所で、新しい人生を探してみるのもいいのかもしれない。

 逆に、来なければ――。

 百合香はこれからも日陰の女として、ずっとずっと雄二のそばにいる。
 一生そのままでもいい。

 そんなことを思いながらも、心の奥底では佐山が言ったような〝人並みの幸せ〟に憧れている自分がいるのもまた事実だった。

 今さら、雄二との間に子供を持つことは出来ないだろう。

 それでも、もしかしたら……別の人となら――。

 最悪、子持ちの男性と結婚して、その人の子を我が子みたいに可愛がる未来だって、いいんじゃないだろうか。

 無理矢理そう思おうとして、ズキリと胸が痛んだ。

 子供はともかく……雄二以外の男性を愛せるとは思えなかった。

(雄ちゃん……)

 百合香は、雄二との間に子を為せた雪絵のことを、心の底から(うらや)ましく思う。

(私も……雄ちゃんとの間に、子供欲しかったなぁ……)

 その望みさえ叶っていたら、一生日陰の女だって今ほど辛いと思わなかったはずだ。

 雄二に抱かれながら、その想いを表へ出さないようにすることが、辛くなかったといえば嘘になる。

(でも……)

 結局どちらへ転んでも苦しいなら……。
 ここらで一度、雄二の家庭を壊さない選択肢を用意するのもきっと、ありなのだ。

(でも……やっぱりしんどいな)

 雄二から離れる。
 そう考えただけで、半身が引き裂かれるような気持ちになってしまう。

 それでも――。

 他力本願でずるい決め方だけど、自分ひとりでは決断出来ない事柄は、時にこういう岐路の定め方をしてもいいだろう。


 芽生が、こちらを振り返る。

 一瞬だけ、視線が合った。

 その笑顔が、あまりにも眩しくて、百合香は瞳を細めた。

 次の瞬間。

 淡いピンクの花束が、ふわりと宙へ放たれる。

(……ダメ、来ちゃう)

 そう思った。

 いや、分かってしまった。

 あのブーケが、真っ直ぐ自分の方へ向かってきていることに。

 逃げようと思えば、逃げられた。
 わざと受け取らないことだって、出来たはずだ。
 でもそうしたら、花束は地面に落ちてしまうかもしれない。
 ひとり、ブーケを求める女性たちの群れから離れていたことが仇になってしまった。

 色々考えていたら、身体が動かなかった。
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