それぞれの幸せ
「ふふ……」
「笑うな」
「だって……嬉しくて」
チューリップを潰さないよう胸へ抱いたまま、百合香はそっと雄二へ身を寄せる。
「ありがとう、雄ちゃん」
雄二は何も言わず、その身体を花束ごと優しく包み込んだ。
***
「雄ちゃん、このままだとまた花がダメになっちゃう……」
「そうだな」
名残惜しさをこらえながら雄二の腕を抜け出した百合香は、収納スペースに仕舞ってあった花瓶を取り出した。
軽くゆすいで水を注ぎ、もらったばかりの九本のチューリップを一本ずつ丁寧に生けていく。
花びらを傷付けないよう、そっと優しく……。
ようやく整え終えると、百合香は少しだけ身を引いた。
「綺麗……」
思わず笑みがこぼれる。
芽生から受け取った花嫁のブーケは、もう戻らない。
けれど今、目の前には新しいチューリップが咲いていた。
しかも――。
〝永遠に一緒に〟
そんな言葉とともに《《雄二から》》渡された花だ。それだけで、その生花は今まで百合香が手にしてきたどんな花よりキラキラして見えた。
百合香はそっと花弁へ触れる。
「今度こそ、ちゃんと大事にするね」
芽生にもらった幸せのお裾分けともいうべき、あのブーケの分まで。
「芽生ちゃんにもらったのも……こんな風に大切にできたら良かった……」
百合香がぽつんとつぶやくと、雄二が背後からそっと抱きしめてくれた。
「《《大丈夫》》だ」
「慰めて……くれてるの?」
「……まぁな」
聞き慣れた低い声。その声を聞くだけで、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
「ありがとう、雄ちゃん」
言いながら振り返ると、静かに自分を見下ろす雄二と目が合った。
思いのほか近い距離になんだか恥ずかしくなった百合香は、照れ隠しのように花瓶を持ち上げ、いそいそとしろの骨壺のそばへ持っていく。
「しろにも見てもらおうね」
「ああ」
それから二人で、しろの眠る棚の前へ並んだ。
「しろ」
百合香は優しく白い骨覆いを撫でる。
「これからはね、雄ちゃんもずっと一緒なんだよ」
雄二は何も言わず、そのそばに飾られたしろの写真をじっと見つめていた。
「邪魔だとか思うなよ?」
雄二の言葉に、百合香がクスクスと笑う。
「雄ちゃんにも懐いてたじゃない」
「けど……一緒に住むとなったら話は別だろ?」
言われて、百合香は「え?」と小さく声を漏らし、雄二をじっと見上げた。
「離婚した……。俺は今、家なしだ」
確かに雄二が住んでいたあの家は、葛西組の組長が、〝雪絵のために〟用意したものだという話だった。そこへ住み続けることは不可能だろう。
「百合香がいなくなってからは、事務所で過ごしていた」
「え?」
「お前の許可なしに、ここへ寝泊まりするわけにはいかないだろう?」
「……」
この家を借りてくれたのは雄二だ。合鍵だって持っているのだから、使ってくれて構わなかったのに……。
そう言おうとした瞬間、
「もしかして……置いてくれないのか?」
雄二が静かに問いかけてくる。
「……なんでそんなこと、聞くの?」
百合香が唇を突き出してみせると、雄二がふっと口の端に笑みを浮かべた。
「笑うな」
「だって……嬉しくて」
チューリップを潰さないよう胸へ抱いたまま、百合香はそっと雄二へ身を寄せる。
「ありがとう、雄ちゃん」
雄二は何も言わず、その身体を花束ごと優しく包み込んだ。
***
「雄ちゃん、このままだとまた花がダメになっちゃう……」
「そうだな」
名残惜しさをこらえながら雄二の腕を抜け出した百合香は、収納スペースに仕舞ってあった花瓶を取り出した。
軽くゆすいで水を注ぎ、もらったばかりの九本のチューリップを一本ずつ丁寧に生けていく。
花びらを傷付けないよう、そっと優しく……。
ようやく整え終えると、百合香は少しだけ身を引いた。
「綺麗……」
思わず笑みがこぼれる。
芽生から受け取った花嫁のブーケは、もう戻らない。
けれど今、目の前には新しいチューリップが咲いていた。
しかも――。
〝永遠に一緒に〟
そんな言葉とともに《《雄二から》》渡された花だ。それだけで、その生花は今まで百合香が手にしてきたどんな花よりキラキラして見えた。
百合香はそっと花弁へ触れる。
「今度こそ、ちゃんと大事にするね」
芽生にもらった幸せのお裾分けともいうべき、あのブーケの分まで。
「芽生ちゃんにもらったのも……こんな風に大切にできたら良かった……」
百合香がぽつんとつぶやくと、雄二が背後からそっと抱きしめてくれた。
「《《大丈夫》》だ」
「慰めて……くれてるの?」
「……まぁな」
聞き慣れた低い声。その声を聞くだけで、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
「ありがとう、雄ちゃん」
言いながら振り返ると、静かに自分を見下ろす雄二と目が合った。
思いのほか近い距離になんだか恥ずかしくなった百合香は、照れ隠しのように花瓶を持ち上げ、いそいそとしろの骨壺のそばへ持っていく。
「しろにも見てもらおうね」
「ああ」
それから二人で、しろの眠る棚の前へ並んだ。
「しろ」
百合香は優しく白い骨覆いを撫でる。
「これからはね、雄ちゃんもずっと一緒なんだよ」
雄二は何も言わず、そのそばに飾られたしろの写真をじっと見つめていた。
「邪魔だとか思うなよ?」
雄二の言葉に、百合香がクスクスと笑う。
「雄ちゃんにも懐いてたじゃない」
「けど……一緒に住むとなったら話は別だろ?」
言われて、百合香は「え?」と小さく声を漏らし、雄二をじっと見上げた。
「離婚した……。俺は今、家なしだ」
確かに雄二が住んでいたあの家は、葛西組の組長が、〝雪絵のために〟用意したものだという話だった。そこへ住み続けることは不可能だろう。
「百合香がいなくなってからは、事務所で過ごしていた」
「え?」
「お前の許可なしに、ここへ寝泊まりするわけにはいかないだろう?」
「……」
この家を借りてくれたのは雄二だ。合鍵だって持っているのだから、使ってくれて構わなかったのに……。
そう言おうとした瞬間、
「もしかして……置いてくれないのか?」
雄二が静かに問いかけてくる。
「……なんでそんなこと、聞くの?」
百合香が唇を突き出してみせると、雄二がふっと口の端に笑みを浮かべた。


