それぞれの幸せ
(こいつ、こんな可愛げのある態度が取れる猫だったのか?)
事務所ではいつもムスッとしていた。
それがどうだ。百合香の腕の中ではどこか穏やかに見える。
「お名前、ツルちゃんで覚えてるんだねー。偉い、偉い」
「ニィ」
「初めまして、ツルちゃん」
「ニィ……」
百合香が片腕で抱きかかえたツルの鼻先へ指を持っていくと、ツルは噛んだりせず静かに百合香の指先へ顔を寄せた。
そればかりか、うっとりと目をつぶって
「……ゴロゴロ」
喉まで鳴らし始める。
「嘘だろ……」
ツルは暴れないばかりか、百合香の腕へすっぽり収まり、幸せそうに百合香の胸元へ身体を擦り付けるようにして甘えていた。
「ふふっ。くすぐったいよ」
百合香がそんなツルに嬉しそうに笑う。
呼んでも来ない。
若い衆が抱けば暴れる。
撫でようとすれば逃げる。
そのツルが、初対面のはずの百合香に、これでもかというくらい甘えている姿は何だか不思議な光景だった。
「雄ちゃん!」
百合香が嬉しそうに雄二を見る。
「不愛想だって聞いてたけど、すっごく人懐っこいよ!?」
「……いや、そんなはずはないんだが」
「でも、ほら」
言いながら百合香が頬を寄せても、ツルは嫌がるどころか百合香にすりすりと頭を摺り寄せる。
「可愛い!」
「……」
雄二は眉間に皺を寄せた。
(もしかしてこいつ、男が嫌いだっただけか?)
そうとしか思えない変貌ぶりだ。
「確かに目つきは悪いけど……雄ちゃんが言うほど不細工じゃないよ」
「いや、どう見ても不細工だろ」
「ひどいなぁ。こんなに可愛いのに!」
百合香は譲らない。
その腕の中で、ツルも先ほどまでとは別の猫のように穏やかな顔をしている。
雄二は何となく面白くなかった。
「お前、俺たちに向けるのと、態度が違いすぎるだろ」
「ふふっ。女の子同士だからかな?」
「さあな」
百合香が楽しそうに笑いながら、ツルの頭を撫でる。
その指が、首元へ下りていった。
「このリボンもよく似合ってる。可愛い」
もはや否定するのも馬鹿らしくなってきた雄二は、小さく吐息を落とした。
「これ、最近付けられたみたいに新しいけど……ひょっとしてこの子を連れ帰るために雄ちゃんが付けてくれたの?」
「……まあな」
「ふふっ。ホント、可愛い」
細い指が赤いリボンを辿る。
そして。
「……あれ?」
止まった。
リボンの先。ツルのあごの下で毛に隠れるようにぶら下げられた小さなものへ、百合香の指先が触れる。
「これ……」
ツルの白い毛をそっと掻き分け、現れたものを見た百合香が、小さく息を呑んだ。
銀色に光る、華奢な指輪。よく見ると、花を象った真ん中に、ダイヤがキラキラと輝いていた。
「……雄ちゃん?」
戸惑った目が雄二を見上げる。
雄二は少しだけ視線を逸らした。
「……お前に、だ」
「え?」
「婚約指輪のつもりだ」
「……」
百合香が固まる。
ツルを抱いたまま、何度か瞬きをして……。
それからなぜか、雄二とツルを交互に見た。
「……何だ」
「ううん」
百合香の口元が、ふっと緩む。
「仏頂面なところがちょっと似てるなって思って」
「誰と誰が」
「内緒」
「……」
また笑う。
何が可笑しいのかは分からない。
雄二は眉間に皺を寄せたまま、百合香の腕の中のツルへ――というよりツルが首につけたリボンへ手を伸ばした。
事務所ではいつもムスッとしていた。
それがどうだ。百合香の腕の中ではどこか穏やかに見える。
「お名前、ツルちゃんで覚えてるんだねー。偉い、偉い」
「ニィ」
「初めまして、ツルちゃん」
「ニィ……」
百合香が片腕で抱きかかえたツルの鼻先へ指を持っていくと、ツルは噛んだりせず静かに百合香の指先へ顔を寄せた。
そればかりか、うっとりと目をつぶって
「……ゴロゴロ」
喉まで鳴らし始める。
「嘘だろ……」
ツルは暴れないばかりか、百合香の腕へすっぽり収まり、幸せそうに百合香の胸元へ身体を擦り付けるようにして甘えていた。
「ふふっ。くすぐったいよ」
百合香がそんなツルに嬉しそうに笑う。
呼んでも来ない。
若い衆が抱けば暴れる。
撫でようとすれば逃げる。
そのツルが、初対面のはずの百合香に、これでもかというくらい甘えている姿は何だか不思議な光景だった。
「雄ちゃん!」
百合香が嬉しそうに雄二を見る。
「不愛想だって聞いてたけど、すっごく人懐っこいよ!?」
「……いや、そんなはずはないんだが」
「でも、ほら」
言いながら百合香が頬を寄せても、ツルは嫌がるどころか百合香にすりすりと頭を摺り寄せる。
「可愛い!」
「……」
雄二は眉間に皺を寄せた。
(もしかしてこいつ、男が嫌いだっただけか?)
そうとしか思えない変貌ぶりだ。
「確かに目つきは悪いけど……雄ちゃんが言うほど不細工じゃないよ」
「いや、どう見ても不細工だろ」
「ひどいなぁ。こんなに可愛いのに!」
百合香は譲らない。
その腕の中で、ツルも先ほどまでとは別の猫のように穏やかな顔をしている。
雄二は何となく面白くなかった。
「お前、俺たちに向けるのと、態度が違いすぎるだろ」
「ふふっ。女の子同士だからかな?」
「さあな」
百合香が楽しそうに笑いながら、ツルの頭を撫でる。
その指が、首元へ下りていった。
「このリボンもよく似合ってる。可愛い」
もはや否定するのも馬鹿らしくなってきた雄二は、小さく吐息を落とした。
「これ、最近付けられたみたいに新しいけど……ひょっとしてこの子を連れ帰るために雄ちゃんが付けてくれたの?」
「……まあな」
「ふふっ。ホント、可愛い」
細い指が赤いリボンを辿る。
そして。
「……あれ?」
止まった。
リボンの先。ツルのあごの下で毛に隠れるようにぶら下げられた小さなものへ、百合香の指先が触れる。
「これ……」
ツルの白い毛をそっと掻き分け、現れたものを見た百合香が、小さく息を呑んだ。
銀色に光る、華奢な指輪。よく見ると、花を象った真ん中に、ダイヤがキラキラと輝いていた。
「……雄ちゃん?」
戸惑った目が雄二を見上げる。
雄二は少しだけ視線を逸らした。
「……お前に、だ」
「え?」
「婚約指輪のつもりだ」
「……」
百合香が固まる。
ツルを抱いたまま、何度か瞬きをして……。
それからなぜか、雄二とツルを交互に見た。
「……何だ」
「ううん」
百合香の口元が、ふっと緩む。
「仏頂面なところがちょっと似てるなって思って」
「誰と誰が」
「内緒」
「……」
また笑う。
何が可笑しいのかは分からない。
雄二は眉間に皺を寄せたまま、百合香の腕の中のツルへ――というよりツルが首につけたリボンへ手を伸ばした。


