それぞれの幸せ
「ただいま」
「お帰りなさい、雄ちゃん」
いつも通り。玄関先まで出迎えてくれた百合香が、雄二の抱えている箱を見て目を丸くする。
「それ、なぁに?」
「お前にやろうと思ってな」
「私に?」
「ああ」
差し出された箱を、百合香が小首を傾げながらそっと受け取る。それもそのはず。別に何かの記念日でも、何でもない日なのだ。
だが、お日柄が〝大安〟なことを、雄二は知っている。
だからこそ、指輪の引き取りも、猫の連れ帰りも今日にしたのだ。
百合香に手渡した箱には、いかにもプレゼント……といった様相でリボンが十字に掛けてある。
「開けても……いい?」
「ああ。そのために持って帰ってきたからな」
「ふふ。それもそっか」
嬉しそうに笑ってリボンへ手を掛けた百合香だったが、
「……あれ?」
動きを止めた。
箱の中から、微かな物音がしたからだ。
カサ。
続いて、何もしていないのに、箱が手の中でフルフルと揺れる。
そうして、
「ニィー……」
いかにも不満そうな鳴き声が聞こえてきた。
百合香の目が大きくなる。
「えっ」
雄二を見る。
「もしかして……」
「開けてみれば分かる」
雄二の言葉に、百合香は落としてはいけないと思ったのだろうか。箱をいったん床へ下ろすと、いそいそとリボンを解いた。そうして箱のふたを持ち上げようとして……。
「きゃっ」
百合香が開けるより先、待ち構えていたようにふたが跳ね飛ばされ、中から貧相な白猫が顔を覗かせた。
「……ニィィィィ」
赤いリボンを首に巻いた大層目つきの悪い子猫に、百合香は瞳を見開いた。
でも、次の瞬間、
「わぁ……! 可愛い!」
キラキラと瞳を輝かせると、子猫をスッと抱き上げた。
毎日若い衆を傷だらけにしている〝小さなギャング〟である。
「あ、おいっ。そいつは……」
百合香が引っ掻かれるんじゃないかと慌てた雄二だったのだが……。
「ニィー」
猫は雄二の予想に反してとても大人しく百合香の腕の中へ収まってしまう。
「……嘘、だろ」
思わずつぶやいた雄二に、百合香が猫を抱いたまま小首をかしげる。
「雄ちゃん?」
「あー、いや……。そんな大人しく抱かれると思ってなかったんだ」
「そうなの?」
「ああ……」
「事務所じゃ、毎日若い衆を引っ掻いたり噛んだりしてた」
「嘘……」
「ホントだ」
雄二の言葉に、百合香は腕の中の子猫を見下ろす。
「あなた、そんなことしてたの?」
「ニィー」
猫はまるで〝そんなことないですよ?〟とでも言っているみたいに百合香をじっと見上げる。
大人しくはしているが、目つき自体は変わらずものすごく悪い。お世辞にも可愛いとは言えないと思った雄二だったのだが。
「可愛い!」
百合香がギュッと猫を抱きしめてそんなことを言うから、思わず
「……どこがだ」
と口をついてしまっていた。
どう見ても常に不機嫌顔の小さなギャングで、美猫とは程遠い面構えをした猫なのだ。
箱詰めされて連れて来られたことが気に入らなかったのか、雄二を見つめる目は、いつもに増して険しい。
だが百合香には、そんなことは関係ないらしい。
「そういえばこの子、雄相会ではなんて呼ばれてたの?」
「ツル」
「え?」
「ツル。こいつを助けた若い衆が、『鶴の恩返し』を当て込んで名付けたらしい。変な名前だし別に変えても……」
――いい。
そう雄二が続けようとしたら、
「ツルちゃん?」
百合香が子猫に向かって優しく呼び掛けた。
「ニャー」
その声に、ツルが甘えたように答えるのを見て、雄二はますます驚いてしまう。
「お帰りなさい、雄ちゃん」
いつも通り。玄関先まで出迎えてくれた百合香が、雄二の抱えている箱を見て目を丸くする。
「それ、なぁに?」
「お前にやろうと思ってな」
「私に?」
「ああ」
差し出された箱を、百合香が小首を傾げながらそっと受け取る。それもそのはず。別に何かの記念日でも、何でもない日なのだ。
だが、お日柄が〝大安〟なことを、雄二は知っている。
だからこそ、指輪の引き取りも、猫の連れ帰りも今日にしたのだ。
百合香に手渡した箱には、いかにもプレゼント……といった様相でリボンが十字に掛けてある。
「開けても……いい?」
「ああ。そのために持って帰ってきたからな」
「ふふ。それもそっか」
嬉しそうに笑ってリボンへ手を掛けた百合香だったが、
「……あれ?」
動きを止めた。
箱の中から、微かな物音がしたからだ。
カサ。
続いて、何もしていないのに、箱が手の中でフルフルと揺れる。
そうして、
「ニィー……」
いかにも不満そうな鳴き声が聞こえてきた。
百合香の目が大きくなる。
「えっ」
雄二を見る。
「もしかして……」
「開けてみれば分かる」
雄二の言葉に、百合香は落としてはいけないと思ったのだろうか。箱をいったん床へ下ろすと、いそいそとリボンを解いた。そうして箱のふたを持ち上げようとして……。
「きゃっ」
百合香が開けるより先、待ち構えていたようにふたが跳ね飛ばされ、中から貧相な白猫が顔を覗かせた。
「……ニィィィィ」
赤いリボンを首に巻いた大層目つきの悪い子猫に、百合香は瞳を見開いた。
でも、次の瞬間、
「わぁ……! 可愛い!」
キラキラと瞳を輝かせると、子猫をスッと抱き上げた。
毎日若い衆を傷だらけにしている〝小さなギャング〟である。
「あ、おいっ。そいつは……」
百合香が引っ掻かれるんじゃないかと慌てた雄二だったのだが……。
「ニィー」
猫は雄二の予想に反してとても大人しく百合香の腕の中へ収まってしまう。
「……嘘、だろ」
思わずつぶやいた雄二に、百合香が猫を抱いたまま小首をかしげる。
「雄ちゃん?」
「あー、いや……。そんな大人しく抱かれると思ってなかったんだ」
「そうなの?」
「ああ……」
「事務所じゃ、毎日若い衆を引っ掻いたり噛んだりしてた」
「嘘……」
「ホントだ」
雄二の言葉に、百合香は腕の中の子猫を見下ろす。
「あなた、そんなことしてたの?」
「ニィー」
猫はまるで〝そんなことないですよ?〟とでも言っているみたいに百合香をじっと見上げる。
大人しくはしているが、目つき自体は変わらずものすごく悪い。お世辞にも可愛いとは言えないと思った雄二だったのだが。
「可愛い!」
百合香がギュッと猫を抱きしめてそんなことを言うから、思わず
「……どこがだ」
と口をついてしまっていた。
どう見ても常に不機嫌顔の小さなギャングで、美猫とは程遠い面構えをした猫なのだ。
箱詰めされて連れて来られたことが気に入らなかったのか、雄二を見つめる目は、いつもに増して険しい。
だが百合香には、そんなことは関係ないらしい。
「そういえばこの子、雄相会ではなんて呼ばれてたの?」
「ツル」
「え?」
「ツル。こいつを助けた若い衆が、『鶴の恩返し』を当て込んで名付けたらしい。変な名前だし別に変えても……」
――いい。
そう雄二が続けようとしたら、
「ツルちゃん?」
百合香が子猫に向かって優しく呼び掛けた。
「ニャー」
その声に、ツルが甘えたように答えるのを見て、雄二はますます驚いてしまう。