口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~
episode.11
この世界は俗に言うファンタジー。一部の人間は魔法が使え、魔獣と呼ばれる獣も割と多く生息している。
そりゃ、この世界に魔法が存在していると知った時は『私も魔法が使えちゃう!?』なんてちょっとは期待してそれっぽい事してみたりした。今思えば完全なる中二病。アラサーで中二病なんて洒落にならない。
(だってさぁ、誰だって魔法使いには一度は憧れてるものでしょ?)
まあ、蓋を開けてみれば魔法なんてものは使えず、魔獣だってこんな街中に現れることなく、生まれてこの方見たことがない。
……まあ、そんな事どうでもいい。それより、なぜ今更そんな話をしたかと言うと、今初めて魔獣と言うものに対峙しているからだ。
見た感じ巨大な狼って感じで真黒な毛に覆われ、目は充血したように真っ赤。鋭い牙を見せながら唸り声をあげ、私の行く手を阻んでいる。
心地よい風に誘われるままに森へ山菜採りに出掛けてみたらこれだ……
熊に遭遇したら目を逸らさずそっと逃げろと言われているが、魔獣から逃げる方法も誰か教えて。
グォォォォォォ!!!!!
咆哮が森の木々を揺らす。ビリビリと空気が揺れるのを感じる。
(あ、これ駄目なヤツだ)
嫌でも死を覚悟せざるを得ない。
「ははは」と顔を真っ青にしてその場にへたり込んだ。人間、恐怖が限界にくると笑いに変るのを今知った。腰が抜けてしまったら逃げる事は不可能。こうなっては無駄なあがきはしない。ただ、痛いのは嫌だから一思いに殺ってくれると嬉しい。
(あ~ぁ、また死ぬのか)
この世界にはちょっとだけ未練がある。両親や使用人達に最期の挨拶しておきたかったし、ロッド料理長にはまだ教えることが沢山あった。アーネストだって放っておけば病を繰り返すだけ。ヴィクトル団長には騎士団の面倒も見るって約束したのに……
「……あれ……」
涙が頬を伝う。
前世では死ぬことなんて怖くなかったのに、いつの間にこんなに弱くなったんだろう。……いや、この世界だからこそ死にたくないと心が訴えているんだろう。
一度死を躊躇してしまうと、死が怖くて仕方ない。
(いやだ……死にたくない……!)
ウォォォォォォォ!!!と哮ると大きな口を開け、こちらに飛び掛かろうとする魔獣の姿が見える。
「ヴィクトル団長!!!!」
シェンナは両手を合わせギュッと強く目を閉じヴィクトルの名を叫んだ。
ドンッ!
地面が揺れたような衝撃と共に大きな音が聞こえた。覆っていた大きな影は吹き飛び、地面に倒れている。
何が起こったのか分からないシェンナの耳に「シェンナ!」と声が聞こえた。涙で視界が霞む中、その瞳に映ったのは慌てた様子で駆け寄ってくるヴィクトルと複数の騎士の姿だった。
「無事か!?」
「え……」
「カイエン!シェンナを頼む!」
「はぁ~い」
いつもの気怠い声でカイエンがやって来ると、ヴィクトルはシェンナを預け魔獣の元へ。シェンナはカイエンに抱きかかえられ、側の木の根元に腰を下ろした。
「大丈夫?」
「え、なんで……?」
「最近森に魔獣が出るって報告があったから見回り。そこにたまたま君が居合わせたってだけ。君、ツイてるね」
戸惑いながら問いかけると、そっけない態度で教えてくれた。結果的にツイてたとは思う。だけど……
「本気で死んだかと思った……」
放心状態のまま呟いた。
「良かったね。まだ生きてる」
「あ、ありがと、ございます……」
あのカイエンが柔らかな笑顔を私に向けることなんて初めての事。どんな顔して見ればいいのか分からず、伏せ目がちに礼を伝えるのが精一杯だった。
「泣くほど怖かったんでしょ?顔、ぐしゃぐしゃでヤバいよ?」
「……」
気遣うでも慰めるでもなく、憐れみながら言われた。
……この人をちょっとでも見直しかけた自分を全力でぶん殴りたくなった。
「あ、ほら戻ってきたよ」
カイエンの指さす方を見ると、額の汗を拭いながら髪をかきあげるヴィクトルの姿があった。
(ヤバ……かっこいい……)
この状況で不謹慎かもしれないが、団長の顔で騎士たちに指示を出す姿は控えめに言っても最高。おかげで先程までの恐怖が嘘のように消え去った。
「シェンナ!」
「ッ!」
私の顔を見るなり走って駆け寄ってきてくれた。
「無事か!?怪我は!?」
「だ、大丈夫です!」
無事を確かめるように、大きな手で頭や頬を撫でられた。ようやく心が安堵したのだろう。急に涙が溢れてきて止まらない。
「すまん。怖い思いをさせたな」
「い、いえ……」
「ヴィクトル団長のせいじゃない」そう言いたいのに、上手く言葉にできない。
泣いてたら困らせるのは分かってるのに一度決壊した涙腺は簡単には止まってくれない。
「もう大丈夫だ。私がいる」
年甲斐もなく子供のように泣きじゃくるシェンナをヴィクトルは包み込むように抱きしめ、宥めるように優しく背中をさすってくれた。
その様子を黙って見ていたカイエンは小さく息を吐くと、他の騎士たちを連れてその場から姿を消すように去って行った。
静かに黙って胸を貸してくれるヴィクトルの体温を感じていると徐々に気持ちも落ち着いてきた。涙もいつの間にか止まっていたが、この温もりを手放したくなくて、離れることができない。
(……もう少しだけ……)
そう思いながら、ヴィクトルの服を強く握った。
そりゃ、この世界に魔法が存在していると知った時は『私も魔法が使えちゃう!?』なんてちょっとは期待してそれっぽい事してみたりした。今思えば完全なる中二病。アラサーで中二病なんて洒落にならない。
(だってさぁ、誰だって魔法使いには一度は憧れてるものでしょ?)
まあ、蓋を開けてみれば魔法なんてものは使えず、魔獣だってこんな街中に現れることなく、生まれてこの方見たことがない。
……まあ、そんな事どうでもいい。それより、なぜ今更そんな話をしたかと言うと、今初めて魔獣と言うものに対峙しているからだ。
見た感じ巨大な狼って感じで真黒な毛に覆われ、目は充血したように真っ赤。鋭い牙を見せながら唸り声をあげ、私の行く手を阻んでいる。
心地よい風に誘われるままに森へ山菜採りに出掛けてみたらこれだ……
熊に遭遇したら目を逸らさずそっと逃げろと言われているが、魔獣から逃げる方法も誰か教えて。
グォォォォォォ!!!!!
咆哮が森の木々を揺らす。ビリビリと空気が揺れるのを感じる。
(あ、これ駄目なヤツだ)
嫌でも死を覚悟せざるを得ない。
「ははは」と顔を真っ青にしてその場にへたり込んだ。人間、恐怖が限界にくると笑いに変るのを今知った。腰が抜けてしまったら逃げる事は不可能。こうなっては無駄なあがきはしない。ただ、痛いのは嫌だから一思いに殺ってくれると嬉しい。
(あ~ぁ、また死ぬのか)
この世界にはちょっとだけ未練がある。両親や使用人達に最期の挨拶しておきたかったし、ロッド料理長にはまだ教えることが沢山あった。アーネストだって放っておけば病を繰り返すだけ。ヴィクトル団長には騎士団の面倒も見るって約束したのに……
「……あれ……」
涙が頬を伝う。
前世では死ぬことなんて怖くなかったのに、いつの間にこんなに弱くなったんだろう。……いや、この世界だからこそ死にたくないと心が訴えているんだろう。
一度死を躊躇してしまうと、死が怖くて仕方ない。
(いやだ……死にたくない……!)
ウォォォォォォォ!!!と哮ると大きな口を開け、こちらに飛び掛かろうとする魔獣の姿が見える。
「ヴィクトル団長!!!!」
シェンナは両手を合わせギュッと強く目を閉じヴィクトルの名を叫んだ。
ドンッ!
地面が揺れたような衝撃と共に大きな音が聞こえた。覆っていた大きな影は吹き飛び、地面に倒れている。
何が起こったのか分からないシェンナの耳に「シェンナ!」と声が聞こえた。涙で視界が霞む中、その瞳に映ったのは慌てた様子で駆け寄ってくるヴィクトルと複数の騎士の姿だった。
「無事か!?」
「え……」
「カイエン!シェンナを頼む!」
「はぁ~い」
いつもの気怠い声でカイエンがやって来ると、ヴィクトルはシェンナを預け魔獣の元へ。シェンナはカイエンに抱きかかえられ、側の木の根元に腰を下ろした。
「大丈夫?」
「え、なんで……?」
「最近森に魔獣が出るって報告があったから見回り。そこにたまたま君が居合わせたってだけ。君、ツイてるね」
戸惑いながら問いかけると、そっけない態度で教えてくれた。結果的にツイてたとは思う。だけど……
「本気で死んだかと思った……」
放心状態のまま呟いた。
「良かったね。まだ生きてる」
「あ、ありがと、ございます……」
あのカイエンが柔らかな笑顔を私に向けることなんて初めての事。どんな顔して見ればいいのか分からず、伏せ目がちに礼を伝えるのが精一杯だった。
「泣くほど怖かったんでしょ?顔、ぐしゃぐしゃでヤバいよ?」
「……」
気遣うでも慰めるでもなく、憐れみながら言われた。
……この人をちょっとでも見直しかけた自分を全力でぶん殴りたくなった。
「あ、ほら戻ってきたよ」
カイエンの指さす方を見ると、額の汗を拭いながら髪をかきあげるヴィクトルの姿があった。
(ヤバ……かっこいい……)
この状況で不謹慎かもしれないが、団長の顔で騎士たちに指示を出す姿は控えめに言っても最高。おかげで先程までの恐怖が嘘のように消え去った。
「シェンナ!」
「ッ!」
私の顔を見るなり走って駆け寄ってきてくれた。
「無事か!?怪我は!?」
「だ、大丈夫です!」
無事を確かめるように、大きな手で頭や頬を撫でられた。ようやく心が安堵したのだろう。急に涙が溢れてきて止まらない。
「すまん。怖い思いをさせたな」
「い、いえ……」
「ヴィクトル団長のせいじゃない」そう言いたいのに、上手く言葉にできない。
泣いてたら困らせるのは分かってるのに一度決壊した涙腺は簡単には止まってくれない。
「もう大丈夫だ。私がいる」
年甲斐もなく子供のように泣きじゃくるシェンナをヴィクトルは包み込むように抱きしめ、宥めるように優しく背中をさすってくれた。
その様子を黙って見ていたカイエンは小さく息を吐くと、他の騎士たちを連れてその場から姿を消すように去って行った。
静かに黙って胸を貸してくれるヴィクトルの体温を感じていると徐々に気持ちも落ち着いてきた。涙もいつの間にか止まっていたが、この温もりを手放したくなくて、離れることができない。
(……もう少しだけ……)
そう思いながら、ヴィクトルの服を強く握った。