チョコレートに想いを込めた日、親友は消えた
「廊下に並んで、体育館行くぞ」
教室に着くと、飯田先生が生徒達に言う。
「日高、なんでせんせーと来てんの?」
クスクスと笑いながら、同級生がそばに来る。小倉奏。
肩まであるチョコレート色の髪ははねていて、手足は細長い。丸みを帯びた輪郭と垂れた瞳が女っぽい。
小倉は去年、隣のクラスだった。あまり話したことはないけれど、顔見知りではある。目立った外見をしているから。
「たまたま」
泣いてたからなんて言えない。
「小倉その髪……地毛か?」
飯田先生は眉間に皺を寄せる。
「だからそうだって! センセーそれ、去年も聞いてたから」
「ごめんごめん」
飯田先生を睨んでから、小倉は廊下に並ぶ。
「はぁ。ん」
俺も並ぼうとすると、飯田先生がそっと手を掴む。
「気分悪くなったら、勝手に保健室行っていいから」
「ありがとうございます」
頭を下げて、前後の出席番号の生徒を探す。
優しさが怖い。生徒も教師も怪しいと思ってしまう。きっと味方なのに。
「日高お腹痛い?」
小倉が聞いてくる。
「……身体中痛い」
つい本音が漏れる。一体どうしたら、痛くなくなるんだ。
体育館は人が多く、熱い。視線が左右に向く。和哉はどこ……考えるな。
始業式が始まる。早く終われ。そう願いながら、先生や生徒代表の言葉を聞き流す。
「昨年度は痛ましい時間もありましたが、こうして春を迎えられて嬉しく思います」
校長の言葉を聞いた瞬間、心臓が音を立てる。
嬉しい? 死んだのに。
息ができない。視界がぼやける。
「はぁはぁ。ゲホッ!」
胃液を吐く。
「日高!」
飯田先生が目を見開いて駆け寄ってきて、男子トイレまで誘導してくれる。
「うえっ、ゴホゴホ」
便器に手をついて何度も吐く。飯田先生がペットボトルの水を渡してくれる。蓋は開いている。
「息吐いて、ゆっくり。日高、今日親は?」
背中をさすりながら聞いてくれる。
「はぁ。仕事。兄さんも高校いる」
水を飲んで壁にもたれる。
「迎え来るまで保健室で寝てろ。連絡しとくから」
トイレを流してから、手を掴んで立ち上がらせてくれる。
「すみません、面倒ばっか」
「いいんだよ、担任だし」
そのまま俺を保健室まで送ると、飯田先生は体育館に戻っていく。
……ださ。あんな言葉で狼狽えるなよ。
時間が巻き戻せればいいのに。それか俺も死ねたら。
仇を討つんだろうが。
……できる気がしない。犯人を殺す前に、自分の不安定さをどうにかしろよ。