エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
「凛太郎くんに送った。明日の朝一で弁護士に渡してくれるって」
「……ありがとう」
「俺じゃなくて、はるちゃんが電話に出てくれたからだよ」
彼はそう言って、私の隣に腰を下ろした。お茶のカップを両手で包むように持ちながら、ゆっくりと続ける。
「怖かっただろうに、ちゃんと声を保ってた。俺はそれがずっと心配だったんだ。無理させてごめんな」
「無理じゃなかった。……航大くんがいたから」
本当のことだった。あの電話中、ずっと航大くんの手が私の手を握っていた。それだけで、不思議と声が出た。一人だったら、きっと震えていた。それどころか、出られなかったかもしれない。
「凛太郎くんに伝えておいたよ。はるちゃんが頑張ってくれたって」
「……え、そんなこと伝えなくていいのに」
「あいつも、心配してたから。聞いたら喜ぶよ」
航大くんが少し笑いながら言った。
知らないところで、こんなに多くの人が動いてくれている。その事実が、今更ながら胸に沁みた。二年間、一人だと思っていたのに、本当は一人じゃなかった。
航大くんは私の頭をそっと撫でてから、ゆっくりと引き寄せた。
「今夜は、もう何も考えなくていい」
そう言って、額にキスを落とした。
「ただ、ここに俺のそばにいて」
私は彼の胸に頭を預けた。外はもう暗くて、部屋の中だけが温かかった。遠くでかすかに車の音がして、それ以外は静かだった。
航大くんの体温がそれより確かに大きくて、温かくて——私はゆっくりと目を閉じた。
怖い。それは変わらない。
でも、一人じゃない。それも変わらない。
そして、砂浜を二人で歩く約束がある。それが、今は一番大事だった。
終わりが、近づいていた。怖くて、でも確かな、終わりが。