エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。



「怖い?」

「……少しだけ」

「そうか」


 彼は私の額に唇を当てた。朝のキスは、いつもより少し短くてでもいつもより少し力強かった。唇が離れてから、額に額を寄せて、静かにそのままでいた。彼の息が、かすかに私の髪に触れる。


「今日が終われば、全部終わるんだ。どうか、待っていて」

「……うん。待ってる」

 私は彼のシャツをぎゅっと握った。行かないで、とは言えなかった。
 この人が行かなければ、何も終わらないから。当事者である私が行くべきことなのに彼は全て引き受けてくれたのだから怖いなんていうべきではない。

 でも、帰ってきて、という気持ちを込めて、ただ握った。言葉にならないものを、手に込めた。

 航大くんが、その手を両手で包んだ。温かくて、大きな手。


「必ず帰ってくる」


 小さく頷いた。言葉にしなくても、伝わっていると思った。
 彼が着替えてネクタイを締める間、私はキッチンでコーヒーを淹れた。渡すと、航大くんが少し目を細めた。


「ありがとう、美味しい」

 一口だけ飲んで香りを楽しんでから一気に飲み干して、カップをテーブルに置いた。それから上着を羽織って、バッグを手に取った。

 玄関で靴を履きながら、もう一度だけ振り返った。


「じゃあ、行ってきます」


 ドアが閉まり、足音が遠ざかっていく。それが聞こえなくなってから、私はようやく息を吐いた。






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