エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。



  《航大side》


 ホテルのラウンジは、休日の昼間にしては静かだった。

 ラウンジでは柔らかいBGMが流れている。窓の外に見えるのは都心のビルが並んでおり、その景色はひどく場違いなくらい穏やかだった。こんな日に、こんな場所で俺はソファに座って、封筒を膝の上に置いたまま働く病院の院長であり義父でもある湊生が来るのを待っていた。

 封筒の中には、凛太郎が集めた証拠が入っている。不正融資の記録。脅迫音声のトランスクリプト。関係会社を通じた資金移動の全記録。何ヶ月もかけて集めた、反論の余地のない事実の束。

 これを持ってくるまでに、二年かかった。

 はるちゃんが消えた日から、ずっと動き続けた。噂の出所を調べて、義父の周辺を洗って、凛太郎に頼んで資金の流れを追った。途中で何度か、証拠が掴めないまま時間だけが過ぎていく焦りを感じたこともあったがたくさんの人が助けてくれたから今ここに証拠がある。
 諦めるという選択肢は、最初からなかったとはいえ諦めなくてよかったと思う。

 それに……はるちゃんを苦しめて消したのは、この男だ。

 俺の中に怒りがないわけじゃない。むしろ、ずっとある。でも今日、この場所でそれを表に出すつもりはなかった。
 感情を出せば、相手に隙を与える。それは医師として働く際に学んだことだ。どんな状況でも、感情より先に判断がある。

 エントランスの方向から、足音が近づいてきた。

 湊生だった。

 最後に会ったのは、麗との婚約を受けた日だ。あの時も、この男は今と同じ顔をしていた。
 余裕のあり全てを計算した上で動いている人間の顔。俺を品定めするような目で見ながら『よろしく頼む』と言った。それが何を意味しているのか、あの時からわかっていた。




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