エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
その後、私はクリニックに戻ることにした。
航大くんからは好きにしていいと言われていたし、父からも戻ってきたいのなら戻ってきてもいいと言われたので戻ることにした。
久しぶりの出勤の日、小さな看板に書かれた【りすこどもクリニック】の文字や郵便受けには今日の新聞が届いていた。
植木鉢の花が、少し大きくなっていたけど……何も変わっていなかった。
それが、なんだか泣けた。
深く息を吸って、扉を開けた。
「悠南ちゃん! おかえり!」
受付にいたスタッフの先輩が、顔を上げた瞬間に立ち上がった。その声に、喉の奥が詰まった。おかえり、という言葉が、こんなに温かいものだとは知らなかった。
「おかえりなさーい!」
奥から、もう一人のスタッフも出てきた。二人に囲まれて、しばらく立ち尽くしてしまった。何か言わなきゃと思うのに、言葉が出てこなかった。
「そういえば、悠南ちゃんの新しいユニホーム渡さないとね」
「え?」
「え?じゃないでしょ。前とは職種が違うんだからね」
そこにはビニール袋に入っているピンク色地の生地に白色のラインのあるユニホーム、そしてネームプレートには【榛名悠南】の名前とその上には【看護師】と書かれていた。
「じゃあ、着替えてきてよ。新人看護師さん」
「はい。ありがとうございます」
更衣室で看護師のユニホームを着て、ネームプレートを首から下げてインカムをつける。耳にイヤホンをかけた。髪を縛ってお団子ヘアにすると更衣室を出る。
すると父は、何も言わずに近づいてきた。
「また一緒に働けるな」
「うん」
「よろしく頼むよ、榛名さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
父は頬を一瞬緩ませて診察室に入って行った。
診察が始まって、小さな子が受付にやってきた。三歳くらいの女の子で、お母さんの後ろに隠れながら、でもこちらをじっと見ていた。目が合うと、少しだけ笑った。
「おはようございます」
声をかけると、女の子がお母さんの服をぎゅっと掴んだ。
こういう顔を、また毎日見られる。それだけで、十分だと思った。