従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
父の言葉に頷き、私はクリニックへと向かった。
新人医師のアスナ先生――大学病院から父が引き抜いてきた彼は、いつも優しく私をサポートしてくれる。彼が淹れてくれる少し苦めのコーヒーを飲むと、荒んでいた心がわずかに解けるような気がした。
「悠南さん、コーヒー淹れたから飲んでね。外に出る時はちゃんと言ってよ、話は先生から聞いてるから。俺、黒帯持ってんだよ。だから、守れるから」
「ありがとうございます、アスナ先生意外ですね」
「ははっ、よく言われるよ。とにかく、言ってね」
彼は、穏やかな笑顔を見せて午後の診察に行った。
けれど診察が落ち着く頃、午後休憩の担当の私が準備をしているとおやつを忘れたことに気付いた。
「あ……今日のおやつ、キッチンに忘れてきちゃった」
スタッフさんみんなのお気に入りの焼き菓子。
だが今、父は急患の対応で離れられずアスナ先生も処置に入っている。ここから家までは徒歩数分。昼休みの明るい日差しの中なら大丈夫だろう――と思いミユキさんに声をかけた。
「はーい、分かりました。あっ、でも。先生が一人では外に出さないでって」
「うん、だけどすぐそこだから大丈夫だよ」
ミユキさんにそう言ってからクリニックを出ると、家でクッキーの袋を手に取った。
玄関を出て戸締りをしてから敷地内から出ると背後からの声が聞こえ驚いてしまう。
「悠南。考えは変わったか?」
振り返ると、そこには昨日の執念をさらに煮詰めたような伯父が立っていた。