従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。
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意識が浮上したとき、最初に感じたのは、懐かしい……けれど苦い記憶を呼び起こす重厚なお香の匂いだった。楪の本家の客間。幼い頃、お正月や親戚の集まりで何度も通った場所だ。
「目が覚めたか」
ドアを開けて入ってきた伯父に、私は這い上がるようにして訴えた。
「こんなこと、許されるはずがありません! お父様が、警察が放っておかないわ!」
「お前の父には、お前からの『置手紙』を見せておいた……心配ない、あの女が残したクリニックを盾にすれば、あの男は大人しくなる」
卑劣なやり口に、奥歯がガチガチと震える。私の知らない間に、私の筆跡を真似た手紙が作られ父が大切に守ってきたクリニックを盾に脅していたなんて思わなかった。
そのまま私は、有無を言わさぬ力で車に押し込まれた。連れて行かれたのは、麗が贔屓にしているという会員制のヘアサロン。
一般の人は立ち入れない、ラグジュアリーな美容室だった。