従姉の代わりに結婚したら、救急医(元カレ)の執愛に捕まりました。


 現れた美容師は伯父から『悠南がわがままを言って麗の婚約者を奪ってしまって。体裁が悪いから麗になってもらうことにしたんだ』という、巧妙に歪められた事情を聞かされているようだった。


「麗さん可哀想に。こんな地味な子に略奪されたなんて……」


 美容師はそう言いながら、ハサミの冷たい感触がうなじを撫でる。床にハラハラと落ちていくのは、母に似ていると父が愛してくれた、私の長くて黒髪。

 私の髪が一房、また一房と、残酷に切り捨てられていった。
 
 ――数時間後。鏡の中にいたのは、私であって私ではない、知らない女だった。

 顎のラインで切り揃えられた、鋭い印象のミディアムボブ。麗を象徴する、華やかで少し刺々しいブラウンピンクの髪色。

 メイクを施された目元は、驚くほどに従姉に似ていた。鏡を見るのが、これほどまでに苦痛になるんだとは思わなかった。





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