エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
——あの言葉の裏に、ここまでの計算があったのだ。私が怖くて、震えて、麗として振る舞い続けた日々の一つ一つが、全部あの人の手の中にあって転がされていたのだ。
そう思ったら、怒りとも悲しみともつかない感情が、胸の奥でぐるぐると渦を巻いた。
「……悔しい。父も、スタッフも、みんな巻き込まれてたんだって思ったら」
「うん。怒っていい。悔しがっていい。それだけのことをされてきた。それに君には怒る権利がある」
航大くんが、はっきりとそう言った。責めるでも、慰めるでもなく、ただ肯定するように。その言葉が、じんわりと胸に広がった。
彼は私の目をまっすぐに見た。
「凛太郎くんが薬剤部で掴んだ取引記録と、俺が調べていた病院の内部資料——それから、二年前から積み上げてきた証拠を合わせると、かなりの量になる。法的に動くのに十分なものが揃いつつある。あとは、動くだけだ」
「に、二年前から……?」
思わず聞き返すと、航大くんは少しだけ苦い顔をした。
「君が消えた理由が、どうしても腑に落ちなかった。おれに原因があったとはいえあの時の君の目が笑ってたけど、全然笑ってなかった。だから調べ始めた。最初はただの違和感だったけど、掘れば掘るほど出てくる出てくる。……もっと早く動けばよかったと、今でも思ってる」
二年間、私が一人で抱えていた間……彼もずっと——。
そう思ったら胸が詰まって、言葉が出なかった。私は俯いて、膝の上の手をじっと見つめた。
あの日、別れを告げた時の航大くんの顔が、ふっと浮かんだ。驚いた顔。何か言いかけて、飲み込んだ顔。あの時彼が飲み込んだものが、何だったのか——今ならわかる気がした。
「……笑ってなかったって、わかってたの」
「あぁ、あの時は信じてもらえていなかったことがショックを受けてしまった。ショックなんて受ける立場じゃなかったのに。それに、無理に聞き出そうとしたら余計に追い詰めると思って言えなかった。それが一番の後悔だよ」
静かな声だった。
後悔している、と言葉にするのに、航大くんは少しも躊躇わなかった。それがかえって、胸に重く落ちてきた。