エリート救命医と身代わり花嫁の再会愛。
その後。
出かける直前、航大くんは玄関で振り返りもう一度だけ私を抱きしめた。
スーツの襟元から、かすかに石鹸の匂いがした。昨夜と同じ匂い。
「行ってきます。帰ったら、また話そう。……あと」
彼はいたずらっぽく目を細めた。
「帰ってきたら、キスの続き、しような」
「……っ……」
私が顔を熱くさせていれば彼は笑い、玄関から出て行った。
残された部屋は静かで、朝の光だけが変わらずそこにあった。
私はソファに座ったまま、しばらく動けなかった。航大くんが話してくれた言葉を、一つ一つ頭の中でもう一度辿る。
伯父の計画の全貌。凛太郎くんの動き。融資の罠。
そして、航大くんが告げた『もっと早く動けばよかった』という、苦い声。
怖かった。それは本当だ。
私はそっと立ち上がり、窓の外の青空を見上げた。今日の空は、やけに高くてどこまでも続く青に、雲が一つだけ、ゆっくりと流れていく。
小さく息を吐いて、私は自分の手のひらをそっと胸に当てた。