まずは結婚してからだ
 自身の意思とは関係なく陸上界で名前が知られ始め、周囲からの期待は高まり、希望する将来との間で悩んでいた頃でもある。
 それは、航空業界で働くという将来だ。
 三歳の頃から中学卒業まで、父の仕事の都合でアメリカで暮らしていたおかげで英語はほぼネイティブ。
長期の休みには祖父母に会うために飛行機で十時間以上をかけて帰国していた。
 そのことがきっかけで、飛行機や航空業界に興味を持つようになった。
 飛行機は、言ってみれば巨大な鉄の塊。
それが大空を想像もできないほどの速さで飛ぶのだ。
興味を持たないわけ訳がない。
 いずれこの業界に飛び込みたいと思うようになるのは早かった。
 ただ、匠に目をかけ全力で指導してくれる監督や、その道に進むと信じている周囲からの期待に触れるたび、将来を悩み、心は大きく揺れた。
 大学卒業後も実業団で走り続けるか、それとも航空業界に進むか決めかねていた、そんな時期。
気分転換を兼ねて羽田空港の展望デッキを訪れた。
 アメリカから帰国し都内で暮らし始めて以来、気落ちした時や煮詰まった時、何度か訪れリフレッシュしてきた。
 大空に飛び立つ巨大な機体を眺めていると、その迫力に圧倒されてすべてのモヤモヤから解放されて自由になれるような気がした。
 まるで新しい世界への一歩を踏み出せるような、そんな気がしてワクワクするのだ。
< 38 / 43 >

この作品をシェア

pagetop