まずは結婚してからだ
 花梨とのやり取りを思い出すと、電話の相手を恋人だと思い込んだ自分に、つい笑い声が漏れる。

「弟か……」

 披露宴の合間にわざわざ電話をするような相手だ、大切な人に違いない。
だったら恋人だろうと察したが、それはとんだ勘違い。
相手は弟だった。
 披露宴の後で会う約束をしていたものの、弟が運転する車が渋滞に巻き込まれて会えなくなったと、寂しそうに話していた。
大学生になっても姉と仲がいい弟。
花梨自身も弟を溺愛しているようで、弟の話をする彼女の顔から笑みが途切れることはなかった。
弟だけじゃない。
花梨の言葉には家族への愛情がそこかしこに溢れていて、匠自身も心が和らぐような気がした。

 
花梨は高校の部活の後輩だが、とくに親しいわけでもなかった。
 匠の卒業後に入学した彼女とは、活動する時期が重なったことはない。
 大学時代に監督に頼まれて部活に顔を出していたが、その時も個人的に言葉を交わすことはなく、彼女にはお手本のような綺麗なフォームで走る選手という印象しかなかった。
 ただ、後輩思いで優しく誰からも好かれていて、感じがいい子だなとは思っていた。
 当時大学で陸上を続けていた匠は、駅伝選手としての才能が一気に開花し、大会に出るたび区間記録を更新していた。
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