まずは結婚してからだ
 彼女から目が離せず、一瞬、話してみたいと思ったが、親しいわけでもない先輩から声をかけられても気まずいだけだと思い直し、あきらめた。
 それに離陸直後の飛行機に向かって男の子と一緒に手を振る彼女の楽しそうな顔を見ているだけで、不思議と心は満足していた。
 それからしばらくして、その場を後にしようと歩き出した時。

『空を飛ぶって素敵。自由になれるみたいでワクワクするね』

 空を見上げながら男の子にそう話しかけている、花梨の声が耳に届いた。
 同じだ。
 花梨の言葉は自分の思いと同じ。
 空を飛ぶたび自由になれる。
  そしてワクワクする。
 その瞬間、そんな極上の感覚を多くの人に知ってもらいたくて、航空業界への道を模索していた自分を思い出した。
 その思いを叶えるために、帰国後もアメリカの友達と定期的にビデオ通話で話し、英語を忘れないよう努力しているのだ。
 匠はそれまで抱えていた迷いやプレッシャーがクリアになり、未来が見えたような気がした。

『いつか、僕が飛行機を飛ばしてお姉ちゃんをワクワクさせてあげる』

 花梨を見上げ、目を輝かせていた男の子の言葉にも後押しされて、心は決まった。
  ――もしも縁があれば、俺が操縦桿を握る飛行機に、彼女たちを乗せたい。
  同時に心の中でそうつぶやき、航空業界、それもパイロットになると決めた。



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