まずは結婚してからだ
 匠は炭酸水が入ったグラスを手に、リビングのソファに腰を下ろした。
 ここはタワーマンションの二十五階。
  窓の向こうは漆黒の夜空が広がっている。

「ワクワクか……」

 あの時の男の子は、彼女が今日会う約束をしていたという弟に違いない。
 あれから十二年。
 三十三歳になった今、匠は大手航空会社日本エアウェイズ航空にパイロットとして採用され、空を飛んでいる。
 今では副操縦士として多くの乗客を世界各地に送り届けるこの仕事を、心から誇りに思い、精進する毎日だ。
 日々感じるのは、パイロットやCAだけでなくグランドスタッフや航空整備士、そして管制官やグランドハンドリング、他にも運航を見守り続ける地上勤務の人たち、一機の機体を安全に飛ばすためには、驚くほど大勢の人たちの技術と力が必要で、そのことを忘れてはいけないということだ。
 もちろん入社前から理解していたが、入社後すぐに始まったアメリカでの訓練中、何度も繰り返し教えられ、運航業務はチームプレイだとたたき込まれた。
 現場に出てからというもの、その言葉の重みを何度も実感している。
 そして六年前。
 チームの一員に花梨が加わった。
 花梨は日本エアウェイズ航空の子会社、日本エアウェイズサービスの社員で、羽田空港でグランドスタッフとして旅客ハンドリング業務を担当している。
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