こもれび日和
翌朝、そして翌朝。

律の、いつもの電車のいつもの席には蘭は今日もいませんでした。

文庫本を膝の上に置いて、少し身をかがめて読む女の子。

蘭の全体像が消えてしまったようでした。

車内の空気も少し薄い感じがします。

「...いないな。」

窓ガラスに映る自分の顔を見て、律は苦笑いしました。

大学に行っても、律はどういうわけか、わざと文学部の建物を通り過ぎました。

食堂の角を見回したりもしました。

「私はストーカーですか」

小さな推力を入れようとしても、律の心は全く明るくなりませんでした。

 その日の午後、料理科学部の実践的な授業では、夏野菜のトマト煮込み」を作る課題がありました。

トマト、玉ねぎ、ズッキーニ、ナス。

包丁を動かしながら、律は突然、蘭の小説の冒頭に登場した、スープの香りが思い出を呼び起こす」男の子を思い出しました。

「蘭さん、今何してるんだろう?」律がリラックスした瞬間、トマトを握っていた指先が少し滑り、包丁がすりおろしました。
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