何度だってあなたを好きになる~時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女~
デュランは、ジェイクが二年前に見つけた犬だ。
十年の時をさかのぼったその日、森で母親を亡くし鳴いていた仔犬たちを見つけた。三匹いたうち二匹は衰弱してそのままだったが、デュランだけは峠を越え、以来すくすくと育ち、今ではジェイクさえも乗せられそうなくらい大きくなった。
二度目の人生で初めにあった特別な子だから、ジェイクは彼にだけ秘密と本心を打ち明けている。デュランは言葉は話さないが、その瞳は静かに理解を示す賢い子だ。
前の時にはいなかった弟分。それだけでも、先を変えられる希望になったものだ。
ジェイクはこの小領地・ラゴンの領主の長男だ。
五歳上に姉が一人。ほかに兄弟はいない。
だからいずれ父の後を継いで領主になるため、大領主のもとで騎士見習いになり、そのまま王のもとで騎士になる予定だった。たしかに以前はそうした。
母が亡くなり、父が亡くなった時にも、それを疑問に思わなかった。
姉も嫁ぎ先で息災に暮らしていると信じていた。
王の決めた美しい女と結婚することが決まった時さえ、とくに何の抵抗もなく受け入れた。
「ほんと、自分じゃなかったら一発殴ってるくらいだ。気付く予兆くらいあったはずなんだからな」
山賊や野盗をはじめ、戦うこととは決して無縁ではなかったにもかかわらず、なぜかここだけは特別だと信じて疑うことさえしなかったあの頃。
変わらないものがあると信じていた。
小さいが、海と山に囲まれた平和な領地。
自分に様々なことを教えてくれた、紅蓮の館の精霊ミネルバ。
遠くにいても、親友で家族であると信じていた白き魔女シャロン。
たぶん自分は特別なんだと驕っていた。
あの頃は、ただ何も見ようとしていなかっただけだと今は分かる。我ながらめでたすぎて情けない。
だがそんな幻想はもろくも崩れ去った。
突然知った真実は、ジェイクの頭の中に咲いていた花を一気に吹き散らす。
父と母が本当は暗殺されたこと、姉がひどい環境にいたこと、その夫のくだらない野望。そして追い打ちをかけるように火を噴く山。
あの日、ジェイクの頬に触れた冷たい手。
こぼれた涙。
動かなくなった華奢な体。
その躯《むくろ》を抱き、初めて彼女を愛していたのだと気づいた。
あまりにも遅すぎた。
自分の口から出た獣のような叫び。
冷たい口づけ。
起こった最後の魔法。――その何もかもを覚えてる。
最後に彼が行ったのは、最大の魔法だ。
それは過去に戻ること。
狂気に飲まれていたとしても、それがなんだ。
禁忌だろうが構うものか。大切なものをすべて失う未来なんてなくていい。あっていいはずがない!
そして気付くとジェイクは子どもに戻っていた。記憶を持ったまま十年の時をさかのぼったらしい。
領地はあの頃と同じく平和で、何も変わらなかった。
父がいて、母がいて、姉がいる。
だがこの二年、未来を変えるために小さな軌道修正を行ってきた。
十年の時をさかのぼったその日、森で母親を亡くし鳴いていた仔犬たちを見つけた。三匹いたうち二匹は衰弱してそのままだったが、デュランだけは峠を越え、以来すくすくと育ち、今ではジェイクさえも乗せられそうなくらい大きくなった。
二度目の人生で初めにあった特別な子だから、ジェイクは彼にだけ秘密と本心を打ち明けている。デュランは言葉は話さないが、その瞳は静かに理解を示す賢い子だ。
前の時にはいなかった弟分。それだけでも、先を変えられる希望になったものだ。
ジェイクはこの小領地・ラゴンの領主の長男だ。
五歳上に姉が一人。ほかに兄弟はいない。
だからいずれ父の後を継いで領主になるため、大領主のもとで騎士見習いになり、そのまま王のもとで騎士になる予定だった。たしかに以前はそうした。
母が亡くなり、父が亡くなった時にも、それを疑問に思わなかった。
姉も嫁ぎ先で息災に暮らしていると信じていた。
王の決めた美しい女と結婚することが決まった時さえ、とくに何の抵抗もなく受け入れた。
「ほんと、自分じゃなかったら一発殴ってるくらいだ。気付く予兆くらいあったはずなんだからな」
山賊や野盗をはじめ、戦うこととは決して無縁ではなかったにもかかわらず、なぜかここだけは特別だと信じて疑うことさえしなかったあの頃。
変わらないものがあると信じていた。
小さいが、海と山に囲まれた平和な領地。
自分に様々なことを教えてくれた、紅蓮の館の精霊ミネルバ。
遠くにいても、親友で家族であると信じていた白き魔女シャロン。
たぶん自分は特別なんだと驕っていた。
あの頃は、ただ何も見ようとしていなかっただけだと今は分かる。我ながらめでたすぎて情けない。
だがそんな幻想はもろくも崩れ去った。
突然知った真実は、ジェイクの頭の中に咲いていた花を一気に吹き散らす。
父と母が本当は暗殺されたこと、姉がひどい環境にいたこと、その夫のくだらない野望。そして追い打ちをかけるように火を噴く山。
あの日、ジェイクの頬に触れた冷たい手。
こぼれた涙。
動かなくなった華奢な体。
その躯《むくろ》を抱き、初めて彼女を愛していたのだと気づいた。
あまりにも遅すぎた。
自分の口から出た獣のような叫び。
冷たい口づけ。
起こった最後の魔法。――その何もかもを覚えてる。
最後に彼が行ったのは、最大の魔法だ。
それは過去に戻ること。
狂気に飲まれていたとしても、それがなんだ。
禁忌だろうが構うものか。大切なものをすべて失う未来なんてなくていい。あっていいはずがない!
そして気付くとジェイクは子どもに戻っていた。記憶を持ったまま十年の時をさかのぼったらしい。
領地はあの頃と同じく平和で、何も変わらなかった。
父がいて、母がいて、姉がいる。
だがこの二年、未来を変えるために小さな軌道修正を行ってきた。