私を人質にした家族の皆様、敵国王家は私の味方のようです ~最強王家と才女による壮麗なる成敗劇~
*ギルベルトSIDE*
「なんだ、これは……」
翌朝、ベッドから起きたギルベルトは開口一番にそう呟いた。
昨日まで鈍痛を感じていた頭の奥がすっきりし、霞んでいた視界はクリアに。重たかった四肢は軽く、何より目覚めに清々しさを感じる。
特に昨日は、王都郊外の森で魔獣が出没したという緊急の出動要請を受けた。よりによって出没した魔獣のクラスが高く……部下だけに任せられなかったギルベルト自ら討伐のために現地に出向いたため、魔力と体力を多く消費してしまっていた。
結果、怪我人を出すことなく無事に魔獣の討伐ができたが、ギルベルトの疲労――主に体力は限界を迎えたことで、いつも以上に頭痛に悩んでいたのだが……。
そんな疲労によって感じていた不調が、すべて改善されている。
想定していなかった体調の変化に、ギルベルトは困惑するばかり。
「睡眠時間を長くしたわけではないのに、どうして――……まさか!」
昨夜、マリーベルからもらった回復薬を飲んだことを思い出す。
(いや……医者が処方してくれた薬だって、こんなには効かなかったぞ? だが、いつもと違うことなんて、マリーベルがくれた回復薬しか浮かばない)
にわかに信じがたいが、マリーベルの回復薬は本物らしい。本物どころか、効能は医者の処方薬を越えている。
ギルベルトはクルグス王国の第三王子。最高水準の医者に診てもらえる環境が整っている。
だが、王族の彼をもってしても、これほど効き目のあるものを過去に口にしたことはない。
「ご主人様、おはようございます。もう起きられたんですね」
入室してきたレイが、ギルベルトを見て軽く瞠目する。
身体を揺さぶって声をかけるまで死んだように眠る最近のギルベルトを知っているレイは、主人が自力で起床したことに驚いているのだろう。
「おはよう、レイ。実はやたらと体が軽いんだ。あの回復薬が効いたらしい」
「本当ですか? いえ、確かにまだ残っているものの、目の下の隈が随分と薄くなっておりますね」
「レイ、マリーベルは何者なんだ!? 彼女がリュシエール王国で医者の免許を取得していた、という情報はなかったはずだ。エラから、何か報告は?」
マリーベルには悪いが、エラは監視役として付けた侍女だ。
エラとレイは従兄妹同士で、優秀な使用人を排出する一族の出身。クルグス王国内の貴族たちは、こぞって一族の人材を欲するほど。
そのひとりであるエラには侍女の仕事をこなしつつ、レイと情報を共有し、何か怪しい動きがあればギルベルトへ報告するよう命じていた。
「マリーベル様はハーブティーをブレンドするのが趣味のようです。温室で自ら薬草を摘み、乾燥、ブレンドする手際は慣れた者の動きでした。ここ最近、毎日飲んでおられます」
「王女が、自分で?」
「生みの親である側妃殿下が病で亡くなられた影響で、興味を持ったそうです。エラも貧血と冷え性による立ち眩みに悩んでいたところ、マリーベル様から分けてもらったハーブティーで改善したとのこと。ですが、それほど凄いものとは思わず……ご報告せずに申し訳ありません」
「いや、かまわない」
レイが深々と腰を折るが、任務を怠ったとは思わない。
報告の内容だけを聞けば些細なことであるし、わざわざ伝えなかったのは余裕のないギルベルトを気遣ってのことだというのを察するに十分。
それよりも、マリーベルのことだ。
彼女が執務室を訪ねてきたとき、最初ギルベルトは警戒した。疲れているところを狙って媚びを売ったり、お小遣いでは買えないような高額なものを要求するための差し入れかと疑ったのだ。
だが、数週間ぶりに対面したマリーベルからは悪意や下心といったものは一切感じられず、純粋に心配する気持ちだけを向けてくれていた。目的を果たすとあっさり去ってしまう潔さには拍子抜けするほど。
しかも回復薬の効き目は抜群ときた。
(こんなにも凄い回復薬を渡してくれたのに、見返りを求められなかった。俺は、酷い勘違いをしていたのでは?)
ギルベルトは痛みが消えたはずの頭を抱えた。
敵国リュシエール王国の王女との結婚を命じられたとき、ギルベルトは悪い冗談かと思った。
しかし、ギルベルトに政略結婚を命じる父――クルグス国王の顔はいつになく固い。
親なりに、理不尽な命令をしていると自覚しているものだった。
リュシエール王国の王族は、国境近くのクルグス王国領の山から希少な宝石が採掘できるとわかった途端に奪いに来た強欲者だ。
停戦交渉の場では、敗戦国にもかかわらずクルグス王国に対して尊大な態度を崩さない。
リュシエール王国の国王アルカスの代理である第一王子フランツと、息子に同行した王妃ベティーナには非常に手を焼いた。
『今すぐ賠償金は満額払えない。分割で返しますから、とりあえず担保に第一王女マリーベルをクルグス王国に渡します。世間に疎い箱入りですが、どうぞお好きなように扱ってください』
と、まとめたらこのように条件を押し付けてきたのだ。
なんて身勝手でリュシエール王国に都合の良い話なのか――と憤慨したいところではあるが、それでリュシエール王国を制御できるのなら悪くない話でもあった。
クルグス王国側は、一旦話を持ち帰って検討することになったのだが、まさか自分が選ばれるとは。
(あんな傲慢な国の王女など、見なくても悪女だってわかる。世間に疎い箱入りなんて……暗にかなり甘やかされて育った我が儘ということだろう? これは扱いが大変だ……いや、だから俺が選ばれたのか)
ギルベルトは、第一王子と第二王子のふたりに万が一があったときのスペアだ。色々事情があり、第三王子だからといって気楽にというわけにはいかない。
身動きが取りやすいようにと婚約者は不在で、恋人を作るようなこともしていないし、女遊びはもってのほか。完全に身綺麗。
悪女たる王女が難癖をつけようにも、できない相手が自分だったというだけ。
国の役に立てると思えば、この政略結婚を受け入れることは難しいことではなかった。
(決まったものは仕方ない。王女も自国を負かした敵国の王子との結婚なんて嫌だろう。悪女とはいえ、嫌がる女性を組み敷く趣味もないし……求められても困る。しばらくは忙しくなるだろうし、リュシエール王国に文句を言われない程度にもてなして、自由にさせるか)
物心ついたときから、ギルベルトは余計な欲を持たないように生きてきた。
一番上の兄ディートリヒは優秀な頭脳を政務に活かし、王太子としてこれから先もっと重々しい責務を背負うことになる。
二番目の兄エリアスは武術の才能を活かし、国の治安維持のため常に各地を駆け回っている。リュシエール王国との戦争で先陣を切っていたのは第二王子だ。
敬愛する兄たちに何かあれば、ギルベルトは優秀な彼らの代わりを務める必要がある。
ただの貴族であれば気楽な三男坊だったかもしれないが、クルグス王国の王家に生まれたのなら、そのような甘い考えを持つことは望ましくない。
もしものときを迎えたら、余裕など生まれやしないだろう。諦めなければいけないこだわりや執着があったとき、手放すのが辛いのはわかっている。
幼い頃から悟っていたギルベルトは、何事にも特別を作らずにやってきた。
だから結婚にも期待せずにいたのだが……花嫁を迎え入れれば、あまりにもあどけない少女がやってきて驚いた。
低めで、肩幅は華奢。薄紫の髪は飾りつけもアレンジもされず背に流され、濃い紫色の瞳はアメジストのような透明感があった。
顔立ちはギルベルトから見ても整っていて、無垢な印象を受けた。
そして態度は驚くほど謙虚で、素直。あの傲慢なリュシエール王国の王族とは思えない慎ましさだ。
だからといって、芯まで弱々しい感じではない。
白い結婚など、ある意味女性として屈辱的な提案をしたのに、マリーベルは人質として真面目に過ごすと力強く宣言する気高さがあった。
だが、それも当初は猫を被っているだけで、そのうち素が出るだろうと気に留めていなかったが……完全に予想が外れた。
かなり早い時間帯だというのに毎朝出発の見送りに来るし、面倒にする素振りは見当たらなかった。
必要もないのに早起きさせてしまう罪悪感から、見送りは不要と告げたが、マリーベルの誠意にどこか癒されていた部分があった。
極めつけは、今回の回復薬だ。悪女はわざわざ自分で薬草は摘まないし、手間をかけて調合などしない。誰かに命じて、自分の手柄にするものだというのに――。
「レイ、マリーベルは悪女じゃなさそうだな」
「私もそう思います。料理長の話によれば、その小瓶を手に入れるために代金をお小遣いから払ったそうで。公爵夫人から必要のない代金をいただいて、恐縮してしまった料理長から相談を受けております。なお、マリーベル様がお小遣いを使ったのは今回が初めてです」
「お小遣いの初めての使い道が、回復薬のため……本当に悪意がない子なのだな。だというのに俺は彼女に酷い態度を……っ」
回復薬も、まず受け取ってからあとで密かに調べることも出来たのに、面と向かって「毒か?」なんて聞いてしまった。
マリーベルに傷ついた様子はなかったのが救いだが、無罪放免とは自分でも思えない。
あらゆる分野に対し、噂は当てにせず自分の目で見極めるよう日頃から気をつけていたつもりが、このざまだ。
(あの場では非礼を許してくれたが、それでは俺の気が済まない。近日中に、何かお返しを用意しよう。これだけ素晴らしい回復薬をくれたのだから、それ相応の物をプレゼントするとして……残りの一本をどうするかだな)
ギルベルトは気を取り直し、ベッドサイドに置いてあった回復薬の小瓶を手にした。
また疲労が溜まったときのためにとっておきたいが、今までに飲んだこともない奇跡のような代物だ。
この奇跡は偶然なのか、必然なのか。回復薬の正体が気になって仕方がない。
「ちょっと調べてみるか」
ギルベルトは小瓶をハンカチで包むと、王城に着ていくジャケットのポケットに入れた。
「なんだ、これは……」
翌朝、ベッドから起きたギルベルトは開口一番にそう呟いた。
昨日まで鈍痛を感じていた頭の奥がすっきりし、霞んでいた視界はクリアに。重たかった四肢は軽く、何より目覚めに清々しさを感じる。
特に昨日は、王都郊外の森で魔獣が出没したという緊急の出動要請を受けた。よりによって出没した魔獣のクラスが高く……部下だけに任せられなかったギルベルト自ら討伐のために現地に出向いたため、魔力と体力を多く消費してしまっていた。
結果、怪我人を出すことなく無事に魔獣の討伐ができたが、ギルベルトの疲労――主に体力は限界を迎えたことで、いつも以上に頭痛に悩んでいたのだが……。
そんな疲労によって感じていた不調が、すべて改善されている。
想定していなかった体調の変化に、ギルベルトは困惑するばかり。
「睡眠時間を長くしたわけではないのに、どうして――……まさか!」
昨夜、マリーベルからもらった回復薬を飲んだことを思い出す。
(いや……医者が処方してくれた薬だって、こんなには効かなかったぞ? だが、いつもと違うことなんて、マリーベルがくれた回復薬しか浮かばない)
にわかに信じがたいが、マリーベルの回復薬は本物らしい。本物どころか、効能は医者の処方薬を越えている。
ギルベルトはクルグス王国の第三王子。最高水準の医者に診てもらえる環境が整っている。
だが、王族の彼をもってしても、これほど効き目のあるものを過去に口にしたことはない。
「ご主人様、おはようございます。もう起きられたんですね」
入室してきたレイが、ギルベルトを見て軽く瞠目する。
身体を揺さぶって声をかけるまで死んだように眠る最近のギルベルトを知っているレイは、主人が自力で起床したことに驚いているのだろう。
「おはよう、レイ。実はやたらと体が軽いんだ。あの回復薬が効いたらしい」
「本当ですか? いえ、確かにまだ残っているものの、目の下の隈が随分と薄くなっておりますね」
「レイ、マリーベルは何者なんだ!? 彼女がリュシエール王国で医者の免許を取得していた、という情報はなかったはずだ。エラから、何か報告は?」
マリーベルには悪いが、エラは監視役として付けた侍女だ。
エラとレイは従兄妹同士で、優秀な使用人を排出する一族の出身。クルグス王国内の貴族たちは、こぞって一族の人材を欲するほど。
そのひとりであるエラには侍女の仕事をこなしつつ、レイと情報を共有し、何か怪しい動きがあればギルベルトへ報告するよう命じていた。
「マリーベル様はハーブティーをブレンドするのが趣味のようです。温室で自ら薬草を摘み、乾燥、ブレンドする手際は慣れた者の動きでした。ここ最近、毎日飲んでおられます」
「王女が、自分で?」
「生みの親である側妃殿下が病で亡くなられた影響で、興味を持ったそうです。エラも貧血と冷え性による立ち眩みに悩んでいたところ、マリーベル様から分けてもらったハーブティーで改善したとのこと。ですが、それほど凄いものとは思わず……ご報告せずに申し訳ありません」
「いや、かまわない」
レイが深々と腰を折るが、任務を怠ったとは思わない。
報告の内容だけを聞けば些細なことであるし、わざわざ伝えなかったのは余裕のないギルベルトを気遣ってのことだというのを察するに十分。
それよりも、マリーベルのことだ。
彼女が執務室を訪ねてきたとき、最初ギルベルトは警戒した。疲れているところを狙って媚びを売ったり、お小遣いでは買えないような高額なものを要求するための差し入れかと疑ったのだ。
だが、数週間ぶりに対面したマリーベルからは悪意や下心といったものは一切感じられず、純粋に心配する気持ちだけを向けてくれていた。目的を果たすとあっさり去ってしまう潔さには拍子抜けするほど。
しかも回復薬の効き目は抜群ときた。
(こんなにも凄い回復薬を渡してくれたのに、見返りを求められなかった。俺は、酷い勘違いをしていたのでは?)
ギルベルトは痛みが消えたはずの頭を抱えた。
敵国リュシエール王国の王女との結婚を命じられたとき、ギルベルトは悪い冗談かと思った。
しかし、ギルベルトに政略結婚を命じる父――クルグス国王の顔はいつになく固い。
親なりに、理不尽な命令をしていると自覚しているものだった。
リュシエール王国の王族は、国境近くのクルグス王国領の山から希少な宝石が採掘できるとわかった途端に奪いに来た強欲者だ。
停戦交渉の場では、敗戦国にもかかわらずクルグス王国に対して尊大な態度を崩さない。
リュシエール王国の国王アルカスの代理である第一王子フランツと、息子に同行した王妃ベティーナには非常に手を焼いた。
『今すぐ賠償金は満額払えない。分割で返しますから、とりあえず担保に第一王女マリーベルをクルグス王国に渡します。世間に疎い箱入りですが、どうぞお好きなように扱ってください』
と、まとめたらこのように条件を押し付けてきたのだ。
なんて身勝手でリュシエール王国に都合の良い話なのか――と憤慨したいところではあるが、それでリュシエール王国を制御できるのなら悪くない話でもあった。
クルグス王国側は、一旦話を持ち帰って検討することになったのだが、まさか自分が選ばれるとは。
(あんな傲慢な国の王女など、見なくても悪女だってわかる。世間に疎い箱入りなんて……暗にかなり甘やかされて育った我が儘ということだろう? これは扱いが大変だ……いや、だから俺が選ばれたのか)
ギルベルトは、第一王子と第二王子のふたりに万が一があったときのスペアだ。色々事情があり、第三王子だからといって気楽にというわけにはいかない。
身動きが取りやすいようにと婚約者は不在で、恋人を作るようなこともしていないし、女遊びはもってのほか。完全に身綺麗。
悪女たる王女が難癖をつけようにも、できない相手が自分だったというだけ。
国の役に立てると思えば、この政略結婚を受け入れることは難しいことではなかった。
(決まったものは仕方ない。王女も自国を負かした敵国の王子との結婚なんて嫌だろう。悪女とはいえ、嫌がる女性を組み敷く趣味もないし……求められても困る。しばらくは忙しくなるだろうし、リュシエール王国に文句を言われない程度にもてなして、自由にさせるか)
物心ついたときから、ギルベルトは余計な欲を持たないように生きてきた。
一番上の兄ディートリヒは優秀な頭脳を政務に活かし、王太子としてこれから先もっと重々しい責務を背負うことになる。
二番目の兄エリアスは武術の才能を活かし、国の治安維持のため常に各地を駆け回っている。リュシエール王国との戦争で先陣を切っていたのは第二王子だ。
敬愛する兄たちに何かあれば、ギルベルトは優秀な彼らの代わりを務める必要がある。
ただの貴族であれば気楽な三男坊だったかもしれないが、クルグス王国の王家に生まれたのなら、そのような甘い考えを持つことは望ましくない。
もしものときを迎えたら、余裕など生まれやしないだろう。諦めなければいけないこだわりや執着があったとき、手放すのが辛いのはわかっている。
幼い頃から悟っていたギルベルトは、何事にも特別を作らずにやってきた。
だから結婚にも期待せずにいたのだが……花嫁を迎え入れれば、あまりにもあどけない少女がやってきて驚いた。
低めで、肩幅は華奢。薄紫の髪は飾りつけもアレンジもされず背に流され、濃い紫色の瞳はアメジストのような透明感があった。
顔立ちはギルベルトから見ても整っていて、無垢な印象を受けた。
そして態度は驚くほど謙虚で、素直。あの傲慢なリュシエール王国の王族とは思えない慎ましさだ。
だからといって、芯まで弱々しい感じではない。
白い結婚など、ある意味女性として屈辱的な提案をしたのに、マリーベルは人質として真面目に過ごすと力強く宣言する気高さがあった。
だが、それも当初は猫を被っているだけで、そのうち素が出るだろうと気に留めていなかったが……完全に予想が外れた。
かなり早い時間帯だというのに毎朝出発の見送りに来るし、面倒にする素振りは見当たらなかった。
必要もないのに早起きさせてしまう罪悪感から、見送りは不要と告げたが、マリーベルの誠意にどこか癒されていた部分があった。
極めつけは、今回の回復薬だ。悪女はわざわざ自分で薬草は摘まないし、手間をかけて調合などしない。誰かに命じて、自分の手柄にするものだというのに――。
「レイ、マリーベルは悪女じゃなさそうだな」
「私もそう思います。料理長の話によれば、その小瓶を手に入れるために代金をお小遣いから払ったそうで。公爵夫人から必要のない代金をいただいて、恐縮してしまった料理長から相談を受けております。なお、マリーベル様がお小遣いを使ったのは今回が初めてです」
「お小遣いの初めての使い道が、回復薬のため……本当に悪意がない子なのだな。だというのに俺は彼女に酷い態度を……っ」
回復薬も、まず受け取ってからあとで密かに調べることも出来たのに、面と向かって「毒か?」なんて聞いてしまった。
マリーベルに傷ついた様子はなかったのが救いだが、無罪放免とは自分でも思えない。
あらゆる分野に対し、噂は当てにせず自分の目で見極めるよう日頃から気をつけていたつもりが、このざまだ。
(あの場では非礼を許してくれたが、それでは俺の気が済まない。近日中に、何かお返しを用意しよう。これだけ素晴らしい回復薬をくれたのだから、それ相応の物をプレゼントするとして……残りの一本をどうするかだな)
ギルベルトは気を取り直し、ベッドサイドに置いてあった回復薬の小瓶を手にした。
また疲労が溜まったときのためにとっておきたいが、今までに飲んだこともない奇跡のような代物だ。
この奇跡は偶然なのか、必然なのか。回復薬の正体が気になって仕方がない。
「ちょっと調べてみるか」
ギルベルトは小瓶をハンカチで包むと、王城に着ていくジャケットのポケットに入れた。