騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 フェリスが小さく瞬きをする。

 「条件、ですか」

 「ああ」

 短く頷く。

 その視線は、まっすぐフェリスへ向けられていた。

 「誰とでも、というわけにはいかない」

 「……」

 フェリスは黙って聞いている。

 「騎士団の人間とはいえ、力量も、相性もある」

 淡々とした声音。
 理屈としては、正しい。

 「不用意に相手を選ぶべきではない」

 (……通る理由だ)

 自分でも、そう思う。

 「……ですので?」

 フェリスが静かに促す。

 その一言で、わずかに言葉が詰まる。

 (……違うな)

 今のは、理由の一部でしかない。

 本質ではない。

 一瞬、思考が沈む。

 浮かぶのはーー

 訓練場。
 剣を交える距離。
 他の騎士と向き合う、フェリスの姿。

 (……)

 無意識に、奥歯が噛み締められる。

 (……他の男と)
 
 そこまで思って、止める。

 否定するように、息を吐く。

 (合理的に考えろ) 

 これは鍛錬だ。
 必要なことだ。

 理解は、している。

 だがーー

 (……許容できるかは、別だ)

 結論は、あまりにも早かった。

 「……俺が相手をする」

 静かに、言い切る。

 一瞬の沈黙。

 「……え?」

 フェリスの目が、わずかに見開かれる。

 ベイルは視線を逸らさない。

 「俺なら、力量も把握している」

 理屈を、後から整えるように続ける。

 「無用な怪我の心配も少ない」

 「……」

 「指導も兼ねられる」
 
 どれも、正しい。

 だがーー

 (……それだけではない)

 自覚はある。

 だが、それを口にするつもりはない。

 「……どうだ?」

 問いかける声は、いつもより落ち着いている、

 だが、わずかに。

 ほんのわずかにだけ、

 逃げ場を残さない響きを帯びていた。

 「……」

 フェリスは、一瞬だけ言葉を失った。

 「ベイル様が……ですか」

 確認するように、静かに問う。

 「ああ」
 
 短い返事。

 迷いはない。

 「……」

 わずかに視線を落とす。

 そしてーー

 (……そういえば)

 ふと、気づく。

 これまで。

 ベイルと、剣を交えたことはーー

 一度も、なかった。

 龍に向かったあの剣。

 あの時の剣は、目にしている。
 だがーー

 (実際に、相対したことは)

 ない。

 胸の奥に、わずかな高揚が生まれる。

 それは、恐れではなく。

 純粋なーー

 (……興味)

 「……」

 顔を上げる。

 「……はい」

 小さく、しかしはっきりと頷いた。

 「ぜひ、お願いしたいです」

 その声音に、迷いはなかった。

 まっすぐで、澄んでいる。

 ーー剣に対して。

 「……そうか」

 ベイルは短く答える。

 だが。

 (……ああ)

 胸の奥が、ひどく静かに満たされる。

 その理由を、ベイルはあえて、深く追うつもりはなかった。
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