キューピットが恋しちゃダメなのに
𓂃Seid,Ena

眩しい。目をそろそろ開ける。



「あ、起きた」



見慣れない景色、聞き慣れない声、初めての感触。

とりわけ、この体が沈んでいく心地よい感じがたまんない。



「・・ここはなんていう雲の上?」

「く、雲?空の?」

「それ以外にないよ?ふわふわしてるでしょ」

「プハッっく、雲・・クっ・・そ、れはベット。ベットだろ」

「なにそれ、てか誰!?ここは天国!?」



今気づいた。

私、なに寝ぼけてるんだろ。

私落ちて、その後声かけられて、それからその人は――京極、翔奏と星奈桜桃。

星奈桜桃が翔奏と呼んでいたのをきいた。



「お前、なにがあったんだ?病院行くか?」

「いや私――」



思わず私は息を飲んだ。

誰だ、と思ってみた方向に、とてつもないイケメンがいたから。

切れ長の目の上にはぱっちりとした長いまつ毛。

濡れたような黒髪が陶器のようになめらかな白い肌によく映えて。

きれいだ、と思った。

この人が翔奏。

さっきはよくみなかったけれど、そう直感した。



「・・大丈夫?」

「ハッ。ここ、どこ?」

「俺んち」

「人間、界!」



これからどうしよう。という不安よりも、助かってよかったぁ、人間ってちょっとワクワクするっていう気持ちが私の中で勝った。

どうやったら天界に戻れるんだろう。

ルイはなんて思ってるのかな。

もう会えないのかな。

・・全部夢、だったらいいのに。



「名前は?なんで倒れてたんだよ」

「エナ!エナっていうの。ぅっえっ、と、そー家出!してきて」

「何歳?」

「遅生まれの15歳」



話しかけられるままに答える私。

その時、彼が持っていたスマホが声を出した。

プルルルル、プルルルル、という鈴がなるような音。



「ちょっとごめんな、・・なんだよ桜桃」

『翔奏っあの子どう?』



会話の相手はさっきもいた星奈桜桃らしくて、よく通る声はここまで聞こえてきた。



「ぁあ、アイツ今起きた」

「私エナ!アイツじゃない」



思わずムッとして口を挟む。

京極翔奏はチラッとしか私をみない。

笑顔なんて私が寝ぼけてベットを雲と言った時だけ。

それもイジワルな笑顔。



「家出らしいけど」

『エナちゃんって子なの!?やだかわいい悔しい』

「俺、がコイツ引きとんなきゃダメか?」

『あったりまえでしょ!1人で倒れてるってよっぽどそーとーな訳があるんだよ。翔奏だって家でぼっちなの寂しいでしょ?』

「別に俺、」

『ほらさ、翔奏ちょっとした有名人じゃん。名前知ってる理由なんていいよ。うふっ私も有名なんて照れちゃうな〜っ』

ブチっとイヤな音をだして、スマホは机の上にほっぽかれた。



「お前、帰るとこあんの?」

「帰れない、かな」



ニコッと笑ってみせる。

言ってみると、悲しくなってきたな。



「あー、もうわかったよ。いい。落ち着くまでここにいろよ」

「京極翔奏のお家・・?」

「そう。昨日から親が2人とも海外出張中なんだ。1ヶ月は帰ってこない」

「いいの!?」

「いいから言ってるんだろ」



言い方は素っ気ないけど、どこか嬉しそうな顔をしてる彼。

お家に1人ぼっちで、悲しかったのかも知れないな、なんて思った。



「お世話になります!!」

「翔奏」

「へ?」

「同じ家に住むんだし。翔奏って呼べよ」



確かにさっきから、お仕事のままフルネームで呼んでた。

私はしばらく、この人にお世話になるんだから。



「ふふっ、翔奏っ」



ふわり、と微笑みながらさっそく声にすると、翔奏は目をバッと逸らした。



「っ、頼まれた。・・エナ」



真っ赤な夕日が私達を照らす、暖かい日だった。
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