きみは硝子のゼラニウム




夏休みが終わっても、毎日とはいかないけれど、尋くんは定期的にお店に顔を出してくれて、たまにお花を買っていく。


誰にあげるのか、なんて聞けるわけもなくて、ただお花を選んでいる尋くんの横顔をじっと見てしまう。すると、私の考えなんてお見通しなのか、尋くんは笑いながら「家に飾る」なんて言うのだ。


本当なのかどうかも、よくわからない。


尋くんのおかげで——おかげと言っていいのかはわからないけれど——最近お店に来る若い女性のお客さんが増えた気がする。

だって、尋くんがいるときは特にすごい。みんな、ちらちらと尋くんを見ている。

わかるよ。かっこいいもん。あんな人がお花屋さんにいたら誰だって驚くし、ちょっと見ちゃうよ。


でもさあ……。


パチッ、とまた茎を切る。


切った瞬間、またため息が出てしまった。


早く、伝えればよかった。

尋くんの隣に立つには、まだ不十分かもしれない。それでも——それでも、あの人の隣は誰にも渡したくなかった。

そんなことをぐるぐる考えていると、またため息が出そうになる。


今日、何回目かわからない。口から息が漏れそうになった、そのとき。



「ひなちゃん、配達行ってきて~」



奥の作業場のほうから、店長の声が聞こえてきた。思わず「はいっ」と返事をして、私は慌てて顔を上げた。



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