きみは硝子のゼラニウム




……もう、伝えることもできないのに。

それでも心の中で何度も名前を呼んでしまう自分が、どうしようもなく嫌。


じわっと涙がこみあげてきて、視界が滲んでいくのがわかる。こぼれそうになるのを誤魔化すみたいに、ぎゅっとマフラーを握って、そのまま口元を隠した。



「ひな」



――ふと、耳に届いたその声に、心臓が大きく跳ねた。


聞き間違い、なはずなのに。

こんなタイミングで、こんな都合よく、あの声が聞こえるなんてありえない。


……とうとう、幻聴まで聞こえるようになったのかな。

自分でも笑えないくらい、重症かもしれない。



「ひな、久しぶり」



――もう一度、はっきりと呼ばれて、今度はさすがに足が止まった。


……幻聴、じゃない?


ゆっくりと、恐る恐る顔をあげる。

涙でぼやけた視界の向こう、校門のところに立っているその姿が、少しずつ輪郭を結んでいく。


そして次の瞬間、息が止まったみたいに動けなくなった。



……尋くんが、いる。



< 266 / 301 >

この作品をシェア

pagetop