きみは硝子のゼラニウム
……もう、伝えることもできないのに。
それでも心の中で何度も名前を呼んでしまう自分が、どうしようもなく嫌。
じわっと涙がこみあげてきて、視界が滲んでいくのがわかる。こぼれそうになるのを誤魔化すみたいに、ぎゅっとマフラーを握って、そのまま口元を隠した。
「ひな」
――ふと、耳に届いたその声に、心臓が大きく跳ねた。
聞き間違い、なはずなのに。
こんなタイミングで、こんな都合よく、あの声が聞こえるなんてありえない。
……とうとう、幻聴まで聞こえるようになったのかな。
自分でも笑えないくらい、重症かもしれない。
「ひな、久しぶり」
――もう一度、はっきりと呼ばれて、今度はさすがに足が止まった。
……幻聴、じゃない?
ゆっくりと、恐る恐る顔をあげる。
涙でぼやけた視界の向こう、校門のところに立っているその姿が、少しずつ輪郭を結んでいく。
そして次の瞬間、息が止まったみたいに動けなくなった。
……尋くんが、いる。