【完】きみは硝子のゼラニウム
だめ、まだ…話さないといけないことがあるのに。
そう思った次の瞬間、ふわっと体が浮く感覚に包まれる。
「ひな。部屋教えて」
耳元で落ちてきた声に、ゆっくり目を開けると、すぐ近くに尋くんの顔があって、距離の近さに一瞬で意識が引き戻された。
背中と膝の裏にしっかりと回された腕の感触で、今の状況を理解する。
もしかして…。
「ひっ…尋くんっ…私重いから!自分で歩けるよ!」
慌てて声を上げると同時に、さっきまでの眠気が一気に吹き飛ぶ。じたばたと暴れる私をよそに、尋くんはまるで何も感じていないみたいに軽々と立ち上がって、そのまま階段へ向かっていく。
「こら。危ないから静かにして」
「…っ…!」
女子の中でも身長が高いほうの私なのに、こんなふうに軽々と抱き上げられてしまうと、嫌でも実感してしまう。
ああ、この人はちゃんと“男の子”なんだって。
意識したくないのに、意識しないなんて無理で、さっきまであった眠気なんてとっくに消えてしまっているのに、頭だけがぼんやりしてうまく働かない。
どうしていいかわからないまま、ただ腕の中で揺られているしかなかった。