きみは硝子のゼラニウム




心の中で必死に言い聞かせても、頭の奥でぐるぐると尋くんの笑顔や優しい声が浮かんで、どうしても振り払えない。


いったい、どういうつもりでそんなことを言ってくるのか、意味も分からなくて、でも――なぜかその言葉で舞い上がってしまっている自分に気づく。


頬が熱くなって、体温がじんわりと上がっていくのを感じる。


だめ。惑わされたら、だめ。どうせ、みんなに同じことを言ってるはず。


そう自分に言い聞かせて、少しでも冷静になろうとするけれど、どきどきとうるさい心臓を鳴りやませることは私にはできなかった。



落ち着け、落ち着け、と思いながらも、心臓が早鐘のように鳴る。

そんな私の右手を、尋くんはぎゅっと握りしめて、行くよ、と言った。

あっという間に、手は繋がれてしまった。前にも増して、強く握られた手のぬくもりが伝わってくる。

大きな背中を視界に入れながら歩き出すと、不思議と胸の中が安心で満たされていく。



「昼、なんか食べた?」


「…食べてない、ですっ」


「じゃあ、適当に食べるかー」



昨日の夜、尋くんから「出店がたくさん出るよ」と聞いていたから、お昼を抜いて家を出てきて、正解だった。



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