五年後の約束――ランドセルに揺れた、わたしたちの初恋
#7 蝉と姉
「ああ暑い、ああウルサイ」
ケンが居間で氷をたくさん入れたカルピスを飲んでいると、姉が二階から下りてくるなり、そう言って、窓をピシャリと閉め、エアコンのスイッチを入れた。途端、最近鳴き始めた蝉の声が遠くなった。
ケンは、このくらいの暑さなら、外の風が部屋に入って来る方が好きなんだけど。
「あ、アタシにもカルピスつくって。相談に乗ってあげるからさ」
キッチンのテーブル席についたケンのお姉さんは、唐突な提案をしてきた。
「え? 相談なんて特にないよ。カルピスはつくるけど」
ソファーから冷蔵庫に向かうケンの背中に声をかける。
「そうかしら。最近なんか考え込んでんじゃん」
ケンはカルピスと氷が沢山入ったコップとストローをテーブルに置き、姉の斜め前に座る。
そして、やっぱり何か考え込んでいる。
「相談……無くはない」
「ほら。言ってみ」
「クッキーのリベンジしたい」
「はい?」
「それから……僕の気持ちは変わらないってこと、伝えたい」
「なんじゃそりゃ?」
どうせ姉に相談しても、ろくなアドバイスをもらえないだろうからと、ケンは説明をかなり端折った。
「ああ、相手はクミちゃんね」
どき。
実はお姉さん、ケンたちが小一の時、仲よくしているところを学校内で何度も目撃していたし、お弁当の話や、山での遭難未遂の話はお母さんからいろいろ聞いていた。にしても、察しがいいというか、ちょっと怖いというか……
「ケン、あの子にクッキーあげたことあるの?」
「う、うん」
「ああ、そう言えば、むかーし、あんたにクッキーもらったことがあったね。あん時か。……それはお馬鹿ね。あの子、食物アレルギーが出るんでしょう?」
「え、うん。お弁当を一緒に食べてたのに。……うっかり忘れてた」
「クッキーは小麦とか卵とか使ってるからなあ……ん?」
ケンの姉さんは、ストローをくわえたまま、窓の外をぼーっと見ている。
「高校の同級生、『みさと』って子の家がケーキ屋さんなんだけど。そのお店、確かアレルギーの原因となる材料は使ってないって言ってた。あとで電話して、クッキーも売ってないか聞いてみようか?」
「ありがとう。……でも、できれば自分で作ってみたい」
「おう、それは随分ハードル上げてくるわね……まあいいわ。聞いてみる」
「ありがとう。で……もう一つの相談だけど」
ケンは思った。姉の気遣いはありがたいが、さすがにこれは難しいだろう。
というか、姉にこんな相談するのは無茶苦茶恥ずかしい。
「クミちゃん、もうすぐ転校しちゃうんだっけ? 変わらないことを伝える、か……難しいね。だいたいね、みんな『ずっと忘れないよ』とか『手紙交換しようね』なんて調子のいいこと言うけど、まあ、だいたい三日坊主ね。愛は、距離には勝てないわ」
……ケンのお姉さん、マンガかラノベか、何の受け売りかわからないけど、ミもフタもないことをおっしゃる。
「あんた、絵とか工作とか得意でしょ。せっかくだからその特技使って何とかしなさいよ」
参考になったような、ならないような。
「……姉ちゃん、ありがとう。何とかやってみる」
「お礼」
お姉さんは、ケンの目の前に手を差し出す。
「は? カルピス作ったけど」
「そんなもんじゃ済まないでしょ」
「じゃあ何?」
「これから、クミちゃんとの間で起きること、うまくいってもいかなくても、洗いざらい全部報告すること」
蝉×姉=超超ウルサイ。