絶対恋度
買い物を終了させて家にもどった。それだけでかなり体力を消耗したのは、おそらく燈埜と一緒だからだ。
別れて八年。絃葉を通じて、年に一度……あるいはそれ以下の頻度で会うことはあった。それでもやっぱり、気を遣う。肌の表面がうすい熱を帯びたように、ひりひりとやけつくような気がして落ち着かない。
胸元に落ちた髪を、指先でつまんだ。洗ったばかりのそれは、音もなくするりと指の間をすべり、耳の後ろに収まった。自分のものなのに、触れるたび、わずかに息が浅くなる。
燈埜は私の髪が好きな人だった。『この匂い好き』とか『長い方が好き』とか『上で、揺れるのを見るのが好き』とか。燈埜からもらう好きは毎回、“私”じゃなくて、いつも何か越しに触れてくる好きだった。あの頃の私はそれが堪らなく不安で、寂しかったことを思い出す。
「仕事、まだいいの?」
「うん。比較的朝はゆっくりかな。燈埜は?」
「うちは基本リモート。つか俺がルールだから」
「うわあ、ワンマンじゃん」
肩をすくめると、燈埜の口元が懐かしい角度で緩んだ。
「シャワー浴びるから、適当にくつろいで」
「ありがと」
背中を見送ってから、一つ息を吐く。くつろいでと言われて、そのままソファに深く沈み込めるほど私は素直でも器用でもない。
じっとしていると、昨夜失ったものの大きさが、あるいは今ここにいることの非現実さが、思考を支配しそうで怖かった。


