贄と呼ばれた少女の、幸せ
今日はオマエに『お客』が来ている。そういうときは、家に入ることもお客に姿を見られることも許されなかった。だから庭の果樹の間に隠れて、少女はただ木桶を覗き込んでいる。
果樹はとても素晴らしいものだった。見つかってはいけないときに少女の姿を隠してくれる上に、季節によって様々な実をみのらせるから。
お腹が空いたとき、少女は自分に与えられた瓶詰めの酸っぱい野菜や硬く干された肉を食べている。食料が与えられるかはアンタやオマエの気分次第。少女は何度も飢えに苦しみ、必死に考え──今では手元の食料が少しでも長く保つようにと、日々果樹の実りで飢えをしのいでいる。植えたまま放置され鬱蒼と枝葉を伸ばす果樹こそが、少女の命を繋いでいた。