贄と呼ばれた少女の、幸せ
ふたりは、階段を下りきった底に着いた。目の前にはびったりと閉じられた重そうな扉が塞がっている。メイド長は、その扉に手をかけた。
「でもアニーがいなくなったのよ。見ないふりなんて、出来るわけがないじゃない……ッ!」
メイド長は両手を握りしめ、拳を叩きつけるように、扉を開く。
「ねえ、知っていた? アニーは近くの村の出身なの。家族のために仕送りしていたのよ。いい子だったわ。優しかった。手にあかぎれをこしらえて、それでもにこにこ笑って懸命に働いてた。それで、それで、あの子の手の甲にはふたつ並んだ黒子があった」
なぜか、メイド長はアニーのことを過去のように話した。
扉を開いた先はどん詰まりの部屋で、部屋の中央には何か床に描かれた陣の上に、どこにも繋がっていないはずの両開きの扉がぽつんと立っている。少女が両腕を広げたより少し幅広い、背の高いその扉は、骨と肉と臓物でできていた。まるで人間を雑に千切り、捏ねて貼り合わせたように──扉は肋骨でできていた。装飾ははらわた。隙間にはてらてらとぬめり脈動する肉。扉枠は、幾人もの手が繋ぎ合わされ、絡み合い、組み上げられてできていた。
その手のうちの一本に、ふたつ並んだ黒子が見えた。