贄と呼ばれた少女の、幸せ
「それがそうか」
馬車から降りてきた神経質そうな男が、少女をじろりと一瞥し口を開いた。
「そうです! 今、見せるんで!」
アンタは媚びるような笑みを浮かべ、少女の腕を引っ掴み腕を振り上げる。ばあんと大きな音が鳴り響く。力いっぱい頬を張られて、少女の体はひどく反り返った。
「オイ早く治せ!」
鼻や口の端から血をぽたぽたと落としながら、少女はくらくらとする頭で大人しくそれに従う。何が起こっているのか少女には理解できない。ただ痛くて、治してもいいなら治したかった。
「ふん、本物だな。代金を」
神経質そうな男が頷くと、後ろに控えていた年嵩の男が前に出て、じゃらりと音を立てる小ぶりな袋を差し出した。アンタは袋を受け取ったとたん中身を覗き込み、弾んだ声を上げる。
「すげえ! 大金だ!」
「ちょっとあんた、あたしにも見せてよ!」
小ぶりな袋と引き換えに、少女は突き出されるように年嵩の男へと受け渡された。アンタとオマエは袋の中身に夢中で、もう少女を見ることはない。そのまま馬車につれ込まれ、少女はぼんやりと、もうあそこに居られないのだな、と理解した。
不思議と、年嵩の男は馬車に乗ってこなかった。頭の上で、「始末は」「恙無く」と男たちが会話を交わすのが聞こえたが、少女にはそれが何を意味するかわからなかった。馬車は、年嵩の男を残して走り始めた。